78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎『あんハピ♪』花小泉杏より不幸な二次元キャラは居るのか!?検証(後編)

2016-05-30 01:48:27 | ほぼ週刊サンマイ新聞
<犬吠埼樹(いぬぼうざき いつき)>

『小学生の頃、知らない大人たちが家にやってきたことがあった。私はお姉ちゃんの背中に隠れているだけで、後でお姉ちゃんは『お父さんとお母さんが死んじゃった』って、教えてくれた。あの日から、ずっとお姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、お母さんでもあって、ずっとお姉ちゃんの背中が一番安心できる場所で……』(4話、樹のモノローグより)

 仔猫の飼い主探しから幼稚園訪問まで、世の人々の為になることを勇んで実施する「勇者部」の女子中学生4人を描いた物語『結城友奈は勇者である』。だが開始わずか9分で“日常アニメ”は幕を閉じ、スマホに表示される『樹海化警報』の赤文字、放送事故を想起させる唐突な静止画、切り裂かれる青空。神樹により守られた結界の中で未知なる敵“バーテックス”との戦いが突然始まった。部長の犬吠埼風(ふう)のみ事前に知らされていたが、他の部員には、妹の樹にさえも言えずに抱え込んでいた。部員たちは不幸とさえ思わず戦うことを受け入れ、途中から加わる三好夏凛も含めた5人は12体のバーテックスの全滅に成功。しかし、少女たちの本当の試練はここから始まった。

『もし、もし私がお姉ちゃんの後ろに隠れている私じゃなくて、隣を一緒に歩いていける私だったら……』(同)

 樹は人前で歌うのが苦手だったが、勇者部部員たちの助けもあり克服、音楽の発表会では歌声でクラスメイトを魅了した。

『頑張る理由があれば、私はお姉ちゃんの後ろじゃなくて、一緒に並んで歩いていける』(同)

 それは歌手を目指すこと――そう確信した樹は音楽事務所に音声データを送った。しかし、

――声が出ない――

 バーテックスとの戦いで勇者システム“満開”が発動、その後遺症で樹の声は奪われた。治る可能性が無いことを知ってしまった風は、樹の音声データを見つけ、再生する。

『今は歌を歌うのが本当に楽しいです! そして、私が好きな歌を、一人でもたくさんの人に聴いてほしいと思っています!』

 それを聞いた風はとうとう勇者の姿で街中を暴走、友奈と夏凛が止めに入っても治まることは無かった。

「知らされていたら、私は皆を巻き込んだりしなかった! そしたら、樹は、無事だったんだあ!」

 そこへ全てを悟った樹が現れ、風の後ろから抱きつく。

『勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたい夢も持てなかった
勇者部に入って本当によかったよ   樹』

 無言で微笑む妹に支えられながら大声で泣き崩れる姉。9話は突きつけられた衝撃の事実、少女たちの苦悩と自己嫌悪、そして終盤の声優の本気が垣間見える号泣シーンまで、全てが完璧の神回であり、歌手を目指している矢先に声を失った樹は当方が知る中では最も不幸な二次元女子と言えよう。



 はなこ、佐倉(めぐねえ)、そして樹。無慈悲な現実を受け入れ、不幸さえもハッピーに変換し、逃げ出さずに笑顔で前向きに生きることの大切さを彼女たちは教えてくれた。

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