「遅くても4時半には終わらせろよ!」
A先輩にそう言われ、慌てて朝刊を積んだバイクを走らせた当方。
スタート時の時刻は1時55分。既にいつもより5分以上早く出発することが出来た。
とは言え、配達完遂ベストタイムの4時55分を更に25分も縮めるのは無謀としか思えない。
当方は迷うことなく最終手段に出た。それは、
“順路帳を見ない”
ことだった。
以前他の先輩、I先輩がこう話していた。
「順路帳を見ないで配ればぐーんと速くなるから」
しかし、順路帳を見ないで配るには、270軒以上もの家の場所やアパート・マンションの部屋番号まで全てを暗記していることが絶対条件。
しかも、順路帳を見ないだけでタイムを25分も縮めることが出来るかは不明である。
それでも今はI先輩の言葉を信じるしかなかった。
自分の記憶だけを頼りに、一軒一軒の家に朝刊を入れていく。
「次は確か◎◎さんだな」「次は◎◎さんだよな」「で次は……」その繰り返しで記憶を呼び覚ましていく。
意外にも覚えていた。家の場所のみならず、新聞の種類まで正確に。
あとは速さだけが問題。バイクはもちろん全速力で、バイクを降りてからもポストの場所まで全速力で走った。
今日はとにかく全ての力を出しきって走れ。
ペースなど考えるな。
常に全速力だ。
二度と出せない記録でもいい。
今日は絶対にベストタイムを更新しろ。
もし明日が雨ならベストタイムは絶対に出せない。
晴れている今日がチャンスなのだ。
怒られたくない。その気持ちだけが当方を全速力で走らせていた。
前夜から何も食べていないのに、全く苦にならずに急ぐことが出来た。
そして、全ての配達を終え、店に戻った。
時刻は────
3
時
55
分
なんと、それまでのベストタイムより更に1時間も縮めることに成功。
A先輩から指令された時刻も余裕でクリア。
なんということだ。順路帳を見ないだけでここまで速く配れるとは。
しかし、まだ「チラシ入れ」という難題が残されていた。
朝刊配達のベストタイムを出したこの日は健康診断。体重が1年前より8kgも痩せていた。
その帰り道、車の中でI先輩はこう話していた。
「早く自分のやり方見つけてチラシ入れ速く出来るようにしたほうがいいよ。Aさんは新人には皆ああやって怒ってるんだよ。
で、もしマークされたら毎日怒られるようになるから。そうなる前にチラシ入れをマスターしたほうがいい」
まさか、当方は既にマークされているのか?
翌日の朝刊への不安が耐えぬまま、車は店へと近付いていく。
(つづく)
A先輩にそう言われ、慌てて朝刊を積んだバイクを走らせた当方。
スタート時の時刻は1時55分。既にいつもより5分以上早く出発することが出来た。
とは言え、配達完遂ベストタイムの4時55分を更に25分も縮めるのは無謀としか思えない。
当方は迷うことなく最終手段に出た。それは、
“順路帳を見ない”
ことだった。
以前他の先輩、I先輩がこう話していた。
「順路帳を見ないで配ればぐーんと速くなるから」
しかし、順路帳を見ないで配るには、270軒以上もの家の場所やアパート・マンションの部屋番号まで全てを暗記していることが絶対条件。
しかも、順路帳を見ないだけでタイムを25分も縮めることが出来るかは不明である。
それでも今はI先輩の言葉を信じるしかなかった。
自分の記憶だけを頼りに、一軒一軒の家に朝刊を入れていく。
「次は確か◎◎さんだな」「次は◎◎さんだよな」「で次は……」その繰り返しで記憶を呼び覚ましていく。
意外にも覚えていた。家の場所のみならず、新聞の種類まで正確に。
あとは速さだけが問題。バイクはもちろん全速力で、バイクを降りてからもポストの場所まで全速力で走った。
今日はとにかく全ての力を出しきって走れ。
ペースなど考えるな。
常に全速力だ。
二度と出せない記録でもいい。
今日は絶対にベストタイムを更新しろ。
もし明日が雨ならベストタイムは絶対に出せない。
晴れている今日がチャンスなのだ。
怒られたくない。その気持ちだけが当方を全速力で走らせていた。
前夜から何も食べていないのに、全く苦にならずに急ぐことが出来た。
そして、全ての配達を終え、店に戻った。
時刻は────
3
時
55
分
なんと、それまでのベストタイムより更に1時間も縮めることに成功。
A先輩から指令された時刻も余裕でクリア。
なんということだ。順路帳を見ないだけでここまで速く配れるとは。
しかし、まだ「チラシ入れ」という難題が残されていた。
朝刊配達のベストタイムを出したこの日は健康診断。体重が1年前より8kgも痩せていた。
その帰り道、車の中でI先輩はこう話していた。
「早く自分のやり方見つけてチラシ入れ速く出来るようにしたほうがいいよ。Aさんは新人には皆ああやって怒ってるんだよ。
で、もしマークされたら毎日怒られるようになるから。そうなる前にチラシ入れをマスターしたほうがいい」
まさか、当方は既にマークされているのか?
翌日の朝刊への不安が耐えぬまま、車は店へと近付いていく。
(つづく)
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