鎌倉という都市は意外と早く寝静まる。
観光の軸となる寺院は夕刻には閉門するから、観光客は日暮れには帰路につくか江ノ電で湘南へと移動する。
今回はちょっぴり怖い鎌倉ということで、夜も更けてからの鎌倉夜歩きである。
仲間がいればきっと怖くない。
終電がなくなってしまっては困るので、初の自動車で鎌倉入り。
第三京浜から横浜横須賀道路に乗り継いで、朝比奈ICで降りれば鎌倉はもうすぐ。
鎌倉七口のひとつとして知られる朝夷奈切通しのある金沢街道の峠を越えると、鎌倉市に入る。
峠の付近には鎌倉霊園が広大な闇をたたえている。
竹林の庭が有名な報国寺や坂東三十三ヵ所第一札所の杉本寺を通り過ぎて、八幡宮前左折。
普段とは異なる景観に少しばかり興奮を覚えながらも、段葛を南下する。
若宮大路の中心に造られた歩行者専用の段葛は現在修復工事中で、一面を壁に覆われている。
こうして自動車来ると気がつくのが駐車場の多さで、少しでも空き地があれば時間貸しの駐車場になっている。
運転に馴れない私であるから鎌倉駅近くの比較的大きなところに駐車。
30分300円とは非常に高い。
自動車を降りたらまずは腹ごしらえ。
時刻は21時。
ほとんどの店舗は閉店しているが、鎌倉駅前のファーストフード店はまだ営業していた。
夜の鎌倉を歩くには住宅地はあまりよろしくない。
ということで鎌倉七口のどこかを歩こうということになり、名越切通方面に向かうことに。
少しばかり作戦会議をして、眠くならないうちに再出発。
史層が深い鎌倉である。
さすがに夜の散歩は少しばかり恐ろしそうだ。
そう思うと、駅前の不二家のキャラクターもなんだか恐ろしく見えてくる。
普段は大賑わいの小町通りには人影も少ない。
若宮大路を南下して、横須賀線に沿うように左折して大町橋を渡る。
名越切通は鎌倉時代に逗子・葉山方面を繋ぐ主要道として開削された。
当時、三浦半島には三浦氏がいたため、特に念入りに整備・監視が行われていたに違いない。
山が険しく、人里離れているため、鎌倉七口の中でも古い形をよく残した切通しと云われていて、大切岸と呼ばれる断崖が迫る景観が印象的だ。
その一方で、いつの時代も死やケガレに結び付くものは生活圏からなるべく追いやりたいものである。
そのため、切通し付近にはまんだら堂と呼ばれる中世の葬送地である大規模なやぐら群が残されており、現役の火葬場もある。
そう思うと少しこわい。
一度、横須賀線の踏切を渡ってすぐに左折して路地に入る。
狭い道に鎌倉五水に数えられる日蓮乞水が無造作に残されている。
鎌倉の東側には日蓮ゆかりの史跡が多い。
しばらく歩くと左手に踏切が現れるので、もう一度渡る。
踏切内では上りと下りの線路が少し離れていて、山越えの隧道が近いことを示している。
鈍く光った鉄路が闇の中へと吸い込まれていく。
踏切を渡ったらすぐに左折、狭い道を登りつめるといきなりアスファルトが途絶えて山道になる。
振り返れば、先程の踏切が明るく光っている。
先程までの道も決して明るいとは言えなかったが、こうして眺めるとまだ明るかった。
ここからは明りはまったくない自然の道。
夜間に通る人はまずいない、中世の古道である。
...つづく
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