大学に入ってからは「ただただ自然を前にぽかんとする会」的なのを立ち上げようかと思っているくらいに、落ち着ける場所を求めて彷徨ったりもしている。
目に前に広がる大きな自然を、ただただ見つめたい。
小田急線から見える多摩川の河川敷も素敵だが、たまには遠征してみようと、東の方へ行ってみよう。
スカイツリーの御膝元の押上駅から、京成曳舟線という聞きなれない電車に乗る。
ホームに滑り込んできた列車は、親しみやすい顔をしたちょっと古そうな車両。
薄暗く感じる車内も何となく落ち着く。
押上駅から地上に出て、下町をゆっくりと走っていくと荒川を渡る。
今回はこの、荒川に行ってみよう。
下車するのは四ツ木駅。
綺麗な高架駅だが、駅前はしんみりとして寂しい。
それもそのはず、すぐそばには綾瀬川が流れていて、その先は荒川である。
綾瀬川に沿って首都高速の高架橋が立ちはだかっている。
しばらく綾瀬川を南下すると、対岸を結んでいる木根川橋を使って中洲に渡ることができた。
綾瀬川と荒川に挟まれた中洲は一応、荒川河川敷と呼ばれてサイクリングロードが設けられている。
そのため、基本的に歩行者と自転車しかいない世界である。
この条件がまた落ち着く。
対岸の土手まではざっと400m。
それだけの距離でも視界はずっといい。
スカイツリーをはじめとした高層建築のシルエットが地平に広がって、あとは空だけ。
よく晴れた日には富士山が見えるらしい。
そう簡単に山が望めないのが、東京の東側の特徴であろう。
背景を貫いているのは首都高速中央環状線。
少し下流で綾瀬川が中川に合流するため、高架橋が河川敷の方に渡って来るようで、ゆるやかにS字を描いている。
この部分はかつしかハープ橋といって世界初の曲線桁斜張橋らしい。
確かに、シンプルながらも美しい橋である。
土手の草むらに腰を下ろして移りゆく空の色を楽しむ最高のひと時。
雲が流れている合間に、対岸の街に明りが灯り始めていく。
時が動いていることが、ゆっくりではあるけれども実感できる。
今日のスカイツリーは紫色だ。
周囲には散歩をする人や、写真を撮影に来ている人など、宵のうちは人気もあって安心である。
河川敷を南下すると、知る人ぞ知る「東京タワーとスカイツリーが同時撮影できる」場所がある。
しかし、高さの低い東京タワーの方が遠い距離にあるため、小さすぎていたたまれなくなる。
歴史的に見てしまえば、東京を流れる荒川も人工的につくった放水路。
人為的な自然でも、時を経た現代の東京では私の心を癒してくれる。
川は地域区分はあるものの、何処にも属さない空間である。
文化や人が分断され、流れを止める。(正確には下流に流してしまう)
だからこそ、何も残らないぽっかりとした空間がずっと残っていていい。
毎日の生活とは、ちょっと距離を置ける場所でもある。