試験を終え、頭も体もどぉ~っと疲れたその日の夕方。
明日は2ヶ月に一度の父の通院日。
自宅に帰ることなく、試験会場であった高松から松山へ向かうため、最終の高速バスを待っていた。時間まであと2時間はある。
知らない街ではあるし、荷物はあるし、何よりクタクタに疲れていたので、できればひと処で時間まで過ごしたかった。
でもお茶だけで2時間も居座ることができない性質なので、まずは早めの夕食をうどん屋さんでいただいた。ゆっくり食べたつもりでもせいぜい20分くらいだったと思う。
また、ガラガラとキャリーを引きずって商店街を歩く。
いわゆるチェーン店のコーヒーショップは苦手。席と席の距離が近いし、何よりおいしくない。
かといってインテリアの凝ったモダンな店も、どうも居心地が悪くて落ち着かない。
普段使いはしないような綺麗なカップに入ったお茶を飲むのは心が豊かになるので、雰囲気のある落ち着いた感じの喫茶店が好きだ。
疲れているくせに、妙なこだわりでいわゆる純喫茶を求めて歩いた。
そして、見つけたのがこのお店、南珈琲店。
階段を2階へと上ると、カウンターとテーブル席が並ぶ、ナチュラルな感じの内装に、喫茶店らしいちょっと落ち着いた柔らかな照明。
カウンターには何人かの常連客らしきおじさまたちがそれぞれの時間を過ごしていた。
カフェオレを注文し、時間潰しのための雑誌を選んで、腰を落ち着かせる。
しばらくして、温かな湯気の立ち上るカフェオレが運ばれてきた。
ひとくちふくんで驚いた。
ものすごい熱い。熱くて飲めない。
生まれて初めての、熱くて飲めないカフェオレとの感動的な出会いの瞬間だった。
時間つぶしがしたいという状況であった私にとって、その熱くて飲めないカフェオレはこの上ないご馳走となった。
雑誌を読みながら、折をみてカップに手を延ばすのだが、まだ熱い。
特に猫舌な訳ではないけれど、飲めない。ちょっとずつすするのが精一杯だった。
ゆっくりと雑誌を熟読しながらカフェオレをすすり、
雑誌を読み終えるまでカフェオレはその温かさを保っていた。
砂糖を1杯溶かして飲んだが、コーヒーの香りもちゃんとしてまろやかな美味しいカフェオレだった。今まで飲んだことのあるカフェオレは、運ばれてすぐでも飲めるくらいの温度が大半だったが、長くゆったりとした時間を過ごしていながら、最後まで冷めないカフェオレをいただいたのは初めてだった。
支払いのときたまたまウエイトレスの女の子がいなくて、カフェオレの製作者、マスターがレジに立った。
美味しかったことを伝えたくて、「アツアツでおいしかったです。」とマスターに告げると、ニコッと微笑んで「ありがとうございます。また、お越し下さい。」と言葉を返してくれた。最後に驚いたのが、カフェオレなんと300円(だったと思います。間違ってたらごめんなさい)。身も心も幸福な時間を過ごすことができた。
ひとくちに珈琲といっても、飲みたい人が10人いれば、おいしいと思う珈琲も十人十色。求める理想とピッタリ合ったお店との出会いは、ありそうでなかなかないことかもしれません。
もしも、高松に行く機会があれば、ミシュランで言うところの遠回りしてでも立ち寄って欲しいお店。商店街の中にあり、入り口の間口が狭いので分かりにくいかもしれませんが、是非。