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『パントマイムの歴史を巡る旅』第26回(佐々木博康さん(2))

2015-02-14 07:27:48 | スペシャルインタビュー
(インタビューの第2回は、渡仏した頃のエピソードについてご紹介します)
編集部 佐々木先生が1965年に渡仏されて、エティアンヌ・ドゥクルーに学んでいた時のことについて教えてください。
佐々木博康(以下、佐々木) 向こうには、習いに行っていたので、舞台活動は一切やりませんでした。ドゥクルー先生のご自宅が稽古場で、稽古場はあまり大きくありません。僕が行っていた頃は、生徒は10数名いました。フランス人が3、4人くらいで、他のヨーロッパの国の人やアメリカ人、中国人、僕以外に日本人も1人いました。
編集部 佐々木先生は、どれくらいの期間フランスにいたのでしょうか。
佐々木 僕は1年くらいです。マクシミリアン・ドゥクルーから指導を受けた、及川先生に6年半ドゥクルーの肉体表現を学んでいましたので。
編集部 父親のエティアンヌ・ドゥクルーと息子のマクシミリアン・ドゥクルーの教えに、何か違いはありましたか。
佐々木 いえ、マクシミリアン・ドゥクルーと、エティアンヌ・ドゥクルーと親子で別々でやっていて、傾向は多少違いますが、根本は一緒です。
編集部 ドゥクルーの学校では、どういうレッスンをやったのでしょうか。
佐々木 身体の各部をどのように動かせば何が表現できるのか、力関係、時間空間の短縮、身体のバランス、リズム、即興練習他、多くのことを学びました。
編集部 バレエの動きを取り入れたのも…。
佐々木 あります。ドゥクルー先生は、立っているポーズは、バレエから取り入れていました。

編集部 ドゥクルーがパントマイムを一から作ったということなのでしょうか。
佐々木 マイムの動きはドゥクルー先生が考えました。先生は、元々チャップリンを尊敬していました。先生は、フランスの演劇家ジャック・コポーの学校の生徒で、その中の授業で、シュザンヌ・バンクという女性の先生がマイムを教えていて、そこでがぜん興味を持ち始めました。元々役者で、映画「天井桟敷の人々」に出演したこともあります。あの映画の中で、ジャン・ルイ・バローが演じる主人公のバチストの父親役で息子をののしっているのが、エティアンヌ・ドゥクルーです。あれがエティアンヌ・ドゥクルーって思った人はいないのではないでしょうか。
編集部 えー、知りませんでした。もう一度観てみます。

佐々木 ドゥクルー先生は映画にも出たりしましたが、やはりマイムの方に興味を持ちました。マイムの色々な動きの文法を考えたのがドゥクルー先生です。先生は、身体のバランスや筋肉のひとつひとつを重視して熱心に研究しました。これは、あとから聞いた話ですが、ドゥクルー先生とバローがパンツ一つで裸に近いような姿でずっと研究して、筋肉のいろいろの動きによって表現方法を発見したり、マイムの歩く動きを発見しました。また、ある発表会に2人が出演して、ドゥクルー先生がバランスを崩してしまったので、もう一度最初から始めようとすると、観客からブーイングがあって、先生が激怒し、「君たちは芸術を理解していない」と言って、二度と大勢の人の前でやらなくなりました。
編集部 そんなことがあったのですか。
佐々木 先生の自宅の小さな稽古場で、試演会を何百回もやりました。すごいですよ。観客が3、4人しかいない時もあったそうです。あまり名誉とかを考えなかったということですね。それで、ジャン・ルイ・バローは物足りなくなって、もっと大衆にアピールしたいと考えて離れていきました。その後、マルセル・マルソーが来ましたが、マルソーはマイムの文法を習得して、それを大衆に受けるような使い方をしたので、先生はカンカンに怒って、二人ともお前たちは大衆に媚を売ったと非難しました。
編集部 そんな逸話があったのですね。
佐々木 でもバローやマルソーにしてみれば、若いから多くの人に観てもらいたいというのは無理ないと思います。一方で、ドゥクルー先生が言っていることも分からなくもない。僕は両方分かります。

編集部 佐々木先生は、フランスに滞在中にベラ・レーヌにも教わっていたそうですね。
佐々木 ベラ・レーヌは、スタニスラフスキーの演劇学校で教えていました。彼女がやっていたのは、リアリズムマイムです。簡単に説明しますと、モスクワ芸術座とかにあるスタニフラフスキーのシステムを、言葉を使わずにやるというものです。当研究所も、まず入所すると、リアリズムマイムを教えます。言葉を使わないことで、もっと心理を深く追求し、言葉以上に深いものを表現します。それが、僕がめざしているものです。
編集部 リアリズムマイムって始めて聞きました。
佐々木 僕は、パントマイムってあんまり好きじゃないです。パントマイムは、マイムと兄弟みたいなものだけど、あまり表情を大げさにやるのは嫌いです。
編集部 もっと人間の内面をということですね。
佐々木 ええ。僕が興味を持っているのは、魂の深いところにあるものや精神的なものです。また、僕は、人間ばかりを演じるだけでなく、いろいろな自然の現象を表現します。舞踏的なマイムの方が好きです。筋書きに沿って物語が進行するような作品は、芝居に任せれば良いと思っています。ただ、僕はカフカが一番好きで、カフカの作品を上演する時は、大勢でやりますから、ストーリーの流れも必要となってくるケースもあります。一人で演じる場合は、1時間ソロで踊ってしまうこともあります。
(つづく)
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