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「私は愛されていたのだろうか?」問うべき師が息絶えたのは、圧倒的な密室だった。碧い目をした武術の達人・梁泰隆(りょう たいりゅう)。其の弟子で、決して癒えぬ傷を持つ蒼紫苑(そう しおん)。料理上手な泰隆の養女・梁恋華(りょう れんか)。3人慎ましく暮らして行ければ、幸せだったのに。雪の降る夜、其の平穏な暮らしは打ち破られた。
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第67回(2021年)江戸川乱歩賞を受賞した小説「老虎残夢」(著者:桃野雑派氏)は、南宋時代の中国を舞台にした武侠小説。武侠小説とは、「中国文学での大衆小説の1ジャンルで、武術に長け、義理を重んじる人々を主人公とした小説の総称。」で在る。
武術の達人・梁泰隆は、弟子の蒼紫苑と養女の梁恋華と3人暮らしをしていたが、或る日、3人の武術家を屋敷に呼ぶ。泰隆曰く「3人の内の1人に、武術の奥義を授ける。」と。そして、3人が屋敷を訪れ、1泊した翌日、泰隆は“密室”の中で死体となって発見される。
ジャンルで言えば「密室殺人」。蒼紫苑と屋敷に呼ばれた3人は武術家で在り、其れ其れが超人的な能力を有している。そんな“超能力”を有している連中が容疑者なのだから、「どんな状況で在ろうとも、密室殺人は可能。」という事になってしまうが、幾つかの“縛り”を設ける事で、“ミステリーの体”は何とか維持されている。
とは言え、ミステリーとしては今一つの感が。“縛り”に甘さを感じるし、或る程度読むと、“殺人”の真相が読めてしまう。又、“殺人”に到る動機が余りに壮大過ぎて(個人でどうこう出来る範疇を超えている。)、現実味が感じられないので。尻窄みな感じの結末も、評価を下げさせる。
総合評価は、星3つとする。