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或る北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きの様な奇妙な絵。其の決して上手では無いが、鮮やかで力強い絵を描き続けている寡黙な男・伊苅重吾(いかり じゅうご)に、ノンフィクション・ライターの「私」は取材を試みるが・・・。
彼は何故、笑われても笑われても、絵を描き続けるのか?
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栃木県北東部に位置する小さな集落に、不釣り合いな光景が広がっている。子供の落書きの様な奇妙な絵が、幾つもの家の壁に描かれているのだ。其れ等を描いたのは、元塾の先生をしていたという男・伊苅。何故人々は、稚拙としか思えない絵を壁に描いて貰ったのか?
貫井徳郎氏の小説「壁の男」は、伊苅の半生を明らかにして行く事で、彼が絵を描き続けて行く理由を浮かび上がらせている。そして、彼に絵を描く事を依頼する人々の思いも、同時に明らかとなって行くのだが、絵の上手or下手では無く、絵の中に封じ込まれた何かに、人々は共鳴しているのだった。
「して良い事と悪い事の区別を、頭の中で理解はしていても、人って其の区別に従って100%行動出来ないんだよなあ。」という事を、改めて感じさせられる。嫉妬や我欲といった“黒い部分”が、人からは切り離せないのだ。
読む人によって、評価はハッキリ分かれるタイプの作品だと思う。ネット上では「心を大きく揺さぶられた。」と高く評価する人も居たが、逆に非常に低い評価を付けている人も。自分は貫井作品が嫌いじゃないけれど、此の作品に関しては正直ぴんと来なかった。ハッピー・エンドでも無く、だからと言って貫井作品に良く在るバッド・エンドでも無いという、何か中途半端な終わり方だったので。
総合評価は、星2.5個とする。