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ニースの国際学会に御供する事になった新米外科医・世良雅志。命じられた秘密ミッションは、伝説の天才外科医・天城雪彦に佐伯清剛教授からのメッセージを渡す事だった。一筋縄では行かない食わせ者の天城を相手に、カジノで一世一代の賭けをした結果、無事日本に連れ帰る事に成功。佐伯と天城の計画する、新しい心臓専門病院の設立を手伝う事になる。しかし、其れこそが大学病院内での激しい闘いの始まりだった!神の手は実在するのか!?医師にとって大切なのは、患者の命と金、何方なのか!?
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現役の医師でも在る海堂尊氏は、今や超売れっ子作家の一人。医療現場が抱える問題点等を判り易く盛り込んでいるのも魅力だが、何と言っても登場人物達のキャラクター設定が良い。癖の強い人間が、其れ其れキャラ立ちして描かれている。そしてこちらに一部が記されているけれど、紡ぎ出された作品には多くの登場人物がクロス・オーバーしている。絶妙に「現在」、「過去」、「未来」を行き来しており、其れが故に読み手は登場人物達への思い入れを募らせる事に。
冒頭に記した梗概は、3ヶ月前に刊行された「ブレイズメス1990」の物。3年前に刊行された「ブラックペアン1988」は1988年の東城大学医学部付属病院を舞台に描かれているが、「ブレイズメス1990」は其の2年後、即ち1990年の同病院を舞台としている。1990年と言えば「バブル景気」の終盤に当たるが、当時は「其れから始まる長い不景気」なんぞを想像する人は余り居ず、「未曾有の好景気」に熱病の如く浮かされた人達ばかりだった。「医療現場の過酷な状況」が近年は良く指摘されているが、バブル期には既に其の兆しが出ていた事を、此の作品では指摘している。
昨年刊行された「極北クレイマー」では極北市民病院の病院債権請負人(最終的には院長に就任。)だった世良。40代という設定の様だが、「ブレイズメス1990」では彼が医師として2年目、即ち未だぺいぺいだった時代となっている。「チーム・バチスタの栄光」等では老獪で食わせ者の役割を任ぜられている高階権太院長も、此の頃は一介の講師に過ぎないばかりか、清濁併せ呑めるタイプとは程遠い“正義派”の印象。「様々な経験を積んで行った事で、別の人格が出来上がって行ったのだろうなあ。」と過去の作品を踏まえて想像するのも、又一興だ。相変わらず癖の強い登場人物が目白押しで、「こういう奴、職場にも居るよなあ。」と各キャラクターを実在の人物に置き換えて読むも楽しだ。
最初の方は専門用語が多く用いられ、少々読み辛さを感じなくも無いが、徐々にストーリーに引き込まれて行く。「金の亡者」と批判される一方で、「救いの神」と崇める患者が多いのはブラック・ジャックだったが、彼の事をふっと思い浮かべてしまう作品でも在る。
此の作品では天城が口にした次の言葉が、特に印象に残った。
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「今日はいい天気だが、好天はいつまでも続かない。今、日本は未曾有の好景気を享受し、世界中の富が流入し、土地や絵画を買いまくっている。貧乏人が持ちつけない金を持つと、無意味な散財をする。この勢いならハワイくらい買えると考えている日本人もいるし、米国人すらそれを怖れている。第二のパールハーバー、だがそれは杞憂だ。
我々は大切なことを忘れている。日本人は、途方もなく貧しかった。いつまたあの貧困に逆戻りするかわからないのに。」
「三流国家が突然世界のトップに躍り出て舞い上がり、金の使い方を考えるゆとりすらない。挙句の果て政府まで、余った金を全国にばらまき、お祭り騒ぎの大散財を始める始末。(後略)」
「私は、世界の富が集中する歓楽の国、モナコで暮らしてきました。あちらの金持ちはスケールが大きい。集めた富をひとりで使い切れないことを知っているから富が集中すると、社会還元を考える。モンテカルロハートセンターもそのひとつ。モナコ公国の王族が呼びかけ、モナコ在住のセレブの出資を募り、小洒落た心臓手術専門病院を作った。人口三万人、面積も皇居の二倍しかない小国ならあれで充分だ。そして、もしモナコでやれるなら、エコノミック・アニマルと揶揄される経済大国、日本にはもっとすごいものができるはずだ。」
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総合評価は星3.5個。
ニースの国際学会に御供する事になった新米外科医・世良雅志。命じられた秘密ミッションは、伝説の天才外科医・天城雪彦に佐伯清剛教授からのメッセージを渡す事だった。一筋縄では行かない食わせ者の天城を相手に、カジノで一世一代の賭けをした結果、無事日本に連れ帰る事に成功。佐伯と天城の計画する、新しい心臓専門病院の設立を手伝う事になる。しかし、其れこそが大学病院内での激しい闘いの始まりだった!神の手は実在するのか!?医師にとって大切なのは、患者の命と金、何方なのか!?
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現役の医師でも在る海堂尊氏は、今や超売れっ子作家の一人。医療現場が抱える問題点等を判り易く盛り込んでいるのも魅力だが、何と言っても登場人物達のキャラクター設定が良い。癖の強い人間が、其れ其れキャラ立ちして描かれている。そしてこちらに一部が記されているけれど、紡ぎ出された作品には多くの登場人物がクロス・オーバーしている。絶妙に「現在」、「過去」、「未来」を行き来しており、其れが故に読み手は登場人物達への思い入れを募らせる事に。
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冒頭に記した梗概は、3ヶ月前に刊行された「ブレイズメス1990」の物。3年前に刊行された「ブラックペアン1988」は1988年の東城大学医学部付属病院を舞台に描かれているが、「ブレイズメス1990」は其の2年後、即ち1990年の同病院を舞台としている。1990年と言えば「バブル景気」の終盤に当たるが、当時は「其れから始まる長い不景気」なんぞを想像する人は余り居ず、「未曾有の好景気」に熱病の如く浮かされた人達ばかりだった。「医療現場の過酷な状況」が近年は良く指摘されているが、バブル期には既に其の兆しが出ていた事を、此の作品では指摘している。
昨年刊行された「極北クレイマー」では極北市民病院の病院債権請負人(最終的には院長に就任。)だった世良。40代という設定の様だが、「ブレイズメス1990」では彼が医師として2年目、即ち未だぺいぺいだった時代となっている。「チーム・バチスタの栄光」等では老獪で食わせ者の役割を任ぜられている高階権太院長も、此の頃は一介の講師に過ぎないばかりか、清濁併せ呑めるタイプとは程遠い“正義派”の印象。「様々な経験を積んで行った事で、別の人格が出来上がって行ったのだろうなあ。」と過去の作品を踏まえて想像するのも、又一興だ。相変わらず癖の強い登場人物が目白押しで、「こういう奴、職場にも居るよなあ。」と各キャラクターを実在の人物に置き換えて読むも楽しだ。
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最初の方は専門用語が多く用いられ、少々読み辛さを感じなくも無いが、徐々にストーリーに引き込まれて行く。「金の亡者」と批判される一方で、「救いの神」と崇める患者が多いのはブラック・ジャックだったが、彼の事をふっと思い浮かべてしまう作品でも在る。
此の作品では天城が口にした次の言葉が、特に印象に残った。
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「今日はいい天気だが、好天はいつまでも続かない。今、日本は未曾有の好景気を享受し、世界中の富が流入し、土地や絵画を買いまくっている。貧乏人が持ちつけない金を持つと、無意味な散財をする。この勢いならハワイくらい買えると考えている日本人もいるし、米国人すらそれを怖れている。第二のパールハーバー、だがそれは杞憂だ。
我々は大切なことを忘れている。日本人は、途方もなく貧しかった。いつまたあの貧困に逆戻りするかわからないのに。」
「三流国家が突然世界のトップに躍り出て舞い上がり、金の使い方を考えるゆとりすらない。挙句の果て政府まで、余った金を全国にばらまき、お祭り騒ぎの大散財を始める始末。(後略)」
「私は、世界の富が集中する歓楽の国、モナコで暮らしてきました。あちらの金持ちはスケールが大きい。集めた富をひとりで使い切れないことを知っているから富が集中すると、社会還元を考える。モンテカルロハートセンターもそのひとつ。モナコ公国の王族が呼びかけ、モナコ在住のセレブの出資を募り、小洒落た心臓手術専門病院を作った。人口三万人、面積も皇居の二倍しかない小国ならあれで充分だ。そして、もしモナコでやれるなら、エコノミック・アニマルと揶揄される経済大国、日本にはもっとすごいものができるはずだ。」
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総合評価は星3.5個。
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