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法務官僚の神谷道雄(かみや みちお)が殺された。警察庁警備局の隼瀬順平(はやせ じゅんぺい)は、神谷が日米合同委員会に関わっていた事、“キンモクセイ”という謎の言葉を残していた事実を探り当てる。神谷殺害事件の専任捜査を極秘に命じられる隼瀬。然し、警視庁は捜査本部を縮小、公安部も手を引く事が決定される。軈て協力者で在る後輩の岸本行雄(きしもと ゆきお)の自殺体が発見される。
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今野敏氏と言えば警察小説の大家だが、そんな彼が初めて書いた“警察インテリジェンス小説”が、今回読了した「キンモクセイ」。
何でも彼んでも“陰謀論”に結び付ける人はどうかと思うが、「陰謀なんか、一切無い。」という人も同様に、どうかと思っている。世の中に「“絶対に”在り得ない。」なんていう事は、其れこそ在り得ないと考えているので。何とかの一つ覚えの様に「朝鮮人の陰謀だ!」と叫ぶ人達が、自分達が“好ましく思っている存在”に関する陰謀論は、一切「在り得ない。」と無根拠に切り捨てたりする。「好き嫌いだけで、全く根拠も無しに物事を判断する。」というのでは、とても理性的とは言えない。
「キンモクセイ」は、或る陰謀論を取り上げた内容。具体的に言えば、アメリカが関わって来る事柄なのだけれど、「在り得ない。」と一笑に付す事は出来なかった。「日本国内、特に沖縄県に、他国では例を見ない程多くの米軍基地が設けられている背景を、『国連憲章』の具体的な条文とジョン・フォスター・ダレス国務長官(在任期間:1953年1月21日~1959年4月22日)と関連付けて記している。」等、非常にリアリティーが在るからだ。
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古典的なマスメディア論によると、マスコミの役割は四つ在るのだそうだ。報道、教育、娯楽、そして警鐘だ。今の日本では、他の三つに比較して警鐘の役割が不足している様に思う。警鐘とは詰まり、権力の監視という事だ。
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他国の脅威を矢鱈と陰謀論に結び付ける人に限って、日本の為政者に甘かったりする。「日本の権力者は自国民に対し、不利益な事をする筈が無い。」とか、「“普通に生活している自分”が、日本の為政者によって不利益な目に遭わされる筈が無い。」といった具合にだ。“特高”等により言論封殺された時代が、此の国に在った事を知らないのか、将又「日本にとって不都合な事柄を全否定する事こそが、真の愛国行為で在る。」と“勘違い”しているかなのだろうが。
自国にしろ他国にしろ、権力の監視というのは非常に重要。「権力は、腐敗する。絶対権力は、絶対に腐敗する。」という事を、決して忘れてはいけないと思う。「『そんな事は在り得ない。』と無根拠に受け流した結果、気付いてみれば、身動きが全く取れなくなっていた。」というのでは、笑い話にもならない。
総合評価は、星3.5個とする。