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都内に在る中堅メーカー・東京建電。営業1課の万年係長・八角民夫(野村萬斎氏)は、何処の会社にも居る、所謂“ぐうたら社員”。トップ・セールスマンで在る課長の坂戸宣彦(6代目・片岡愛之助氏)からは、其の怠惰振りを叱責されるが、ノルマも最低限しか課さず、定例の営業会議では傍観しているのみ。絶対的な存在の営業部長・北川誠(香川照之氏)が進める結果主義の方針の元で、部員が寝る間を惜しんで働く中、1人飄々と日々を送っていた。
或る日突然、社内で起こった坂戸のパワハラ騒動。 そして、下された異動処分。訴えた当事者は年上の部下・八角だった。北川の信頼も厚いエース・坂戸に対するパワハラ委員会の不可解な裁定に揺れる社員達。
そんな中、万年二番手に甘んじて来た原島万二(及川光博氏)が、新課長として着任する。会社の“顔”で在る1課で、成績を上げられずに、場違いすら感じる原島。
誰しもが経験するサラリーマンとしての闘いと葛藤。だが、其処には想像を絶する秘密と闇が隠されていた。
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魅力的な経済小説を次々と世に送り出している池井戸潤氏。彼が7年前に上梓した「七つの会議」に付いて、自分は総合評価「星4つ」を付けた。此の程、原作を元に製作された映画「七つの会議」が公開されたので、今日は取り上げてみる。
「こういう奴、身の回りに居るよなあ。」という人物が、次々と登場する。特に“嫌な奴”に関しては、思い浮かぶ者が少なく無い。そういう人は、自分以外にも多い事だろう。
「データが捏造されていた事を会社包みで隠蔽し続けるも、ばれると“蜥蜴の尻尾切り”で終わらせる。」、我が国では過去に多く見られた出来事で在る。見ていてついつい、“過去の事件”と重ね合わせてしまった。
“悪”を見付け出したと思ったら、“更なる悪”の存在が明らかとなり、そして“本当の悪”が登場する。勧善懲悪物としたら蜥蜴の尻尾切りで終わらずに、本当の悪が裁かれる迄しないと、スッキリした気持ちにはならないだろう。でも、現実としては、蜥蜴の尻尾切りで終わってしまう事が殆ど。今回の結末を、観客はどう感じるのだろうか?
橋爪功氏と香川照之氏の演技が見事!俳優としてデビューした頃は演技が上手く無く、「所詮は“親の七光”。直ぐに消えるだろうな。」と思っていた香川氏だったが、オリジナル・ヴィデオを中心に場数を踏んだ事で“大化け”した。(頭の大きさや形が、父親で在る2代目・市川猿翁氏に、何とそっくりな事か。)
一方、主役の野村萬斎氏に関しては、「うーん・・・。」という思いが。舞台出身の人に多いのだけれど、“声の出し方”が非常に不自然なので。“露悪的な雰囲気”を意図的に出していたのだと思う(素に戻った時の八角の声を、微妙に変えていたし。)けれど、其れでも全体としては“演技の過剰さ”を感じてしまった。
作品としては面白い。でも、野村氏の演技が、どうしても自分を“現実”に引き戻してしまい、そういった部分が減点ポイント。総合評価は、星3.5個とする。
緩いようで、やる時はやる、そんな多面性のある男が、一番油断がならないような気がします。野村さんの思想とか考え方の方向性が正しかった、という事でしょう。
橋爪さんの社長然り、会社の上司とは、必ずしも、物の考え方や正義の師とはならないし、本物の師と呼べる人と巡り会える事は、中々無いと思います。
実際に、周囲に居る人たちから、少しずつ学びを得る事が現実で、誰かこの人だけに惚れ込む、という濃い人間関係が持てる事は幸せではないでしょうか。
そういう意味では、繋がりが希薄な今風の企業社会のように思いましたし、主人公の独壇場で、エンターテイメントと作為性の強い作品だったと思います。
「本物の師と呼べる人と巡り会える事は、中々無いと思います。」、本当にそうですね。「此の人は、自分の師足り得る。」と思っても、後になって失望させられるという事が、自分にも在りました。そういう経緯を経て、「信頼」と「信用」の違いを学んだ。
池井戸作品からは、そういうほろ苦さを思い出す事が多いです。