ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「ニムロッド」

2019年02月11日 | 書籍関連

*********************************

仮想通貨ネット空間で「採掘」する僕・中本哲史(なかもと さとし)。中絶と離婚のトラウマ抱え外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子(たくぼ のりこ)。小説家への夢に挫折した同僚ニムロッド荷室仁(にむろ じん)。軈て僕達は、個で在る事を止め全能になって世界に溶ける。「全ては、取り換え可能で在った。」という答えを残して。

*********************************

 

第160回(2018年下半期芥川賞を受賞した小説ニムロッド」(著者上田岳弘氏)。タイトルの「ニムロッド」とは、イギリス戦闘機名なのだそうだ。

 

「ニムロッド」の主な登場人物は中本哲史、田久保紀子、そして“ニムロッド”と呼ばれる荷室仁の3人。ビットコインに代表される仮想通貨を軸に、或る事情から地方に異動となった同僚荷室から送られて来るメールを時折挟み込んで、話は展開して行く。

 

荷室からのメールには「駄目な飛行機コレクション」というタイトルで、「実用化されなかったり、虚しい使われ方をした飛行機。」に関する話が綴られている。実態が全く無い訳では無いし、実用化もされてはいるのだけれど、何処無機質さが感じられる仮想通貨。“全体としてのイメージ”は在るものの、“個としてのイメージ”は「全体の中に埋没してしまっている。」という点では、“個としての存在意義”を失いつつ在る現代人を象徴している様でも在り、又、「実用化されなかったり、虚しい使われ方はしたけれど、個としてのイメージは、確り持ちていた駄目な飛行機。」の対極の存在とも言えるだろう。

 

*********************************

根拠とされていたものが明確であればあるほど、それが無根拠であると暴かれた時の価値の落差が激しかった。ただ存在すると書き付けられた僕のビットコインは、元々根拠が無に等しいからこそ、無根拠であると暴かれたその他の価値を吸って膨れ上がっていくことになったみたいだ。いや、根拠がないと感じるのは僕が一個の人間に過ぎないからかもしれない。人間たちの欲望を吸い上げて、今では人類と一体になった“あのファンド”にとってみれば、ビットコインを買い支えるだけの自明の根拠があるのかもしれない

*********************************

 

以前にも書いた事だが、「直木賞受賞作品の“質”は、比較的“高いレヴェルで安定しているが、芥川賞の場合は作品によって、当たりor外れが激しい。」様に思っている。特に近年、芥川賞受賞作の外れ度が際立つ

 

“全体の中の個”というテーマ(だとしたらだが)は決して悪くは無いが、仮想通貨という“流行り物”を入れ込んだ事で、“テーマの”がぼやけてしまった様に感じる。個人的に言えば、此の芥川賞受賞作品は外れ部類

 

総合評価は、星2.5個とする。


コメント    この記事についてブログを書く
« 「キンモクセイ」 | トップ | 意外だった事 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。