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長野県の山奥に聳え立つ洋館、 九頭龍邸に招かれた天久鷹央(あめく たかお)。其処で彼女を待っていたのは、計算機工学の天才・九頭龍零心朗(くずりゅう れいしんろう)からの「最後の依頼」だった。だが、捜査を開始し間も無く、と或る 「殺人」が起き、事態は混迷を極めて行く。
浮かび上がる容疑者達と、連鎖する事件。そして最後に嫌疑が掛かったのは、・・・?
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現役の医師でも在る小説家・知念実希人氏には「天久鷹央の推理カルテ・シリーズ」というのが在り、今回読んだ「猛毒のプリズン 天久鷹央の事件カルテ」は、其の第17弾に当たる。同シリーズは「怜悧な頭脳と厖大な知識を持っているが、コミュニケーション能力が極めて低く、要らぬ軋轢を生み捲っている変人女医・天久鷹央。」がシャーロック・ホームズ役、そして内科医見習いの小鳥遊優(たかなし ゆう)がジョン・H・ワトソン役という設定。そして、小鳥遊の天敵で在り、彼が所属する統括診断部で臨床研修中の研修医・鴻ノ池舞(こうのいけ まい)というトリオが、どたばた喜劇を繰り広げつつ、不可解な謎を解いて行くという展開。
今回は「鷹央の出身校・帝都大学で同級生だった九頭龍燐火(くずりゅう りんか)に招かれた鷹央達3人が、長野県の山奥に聳え立つ洋館・ 九頭龍邸を訪れる。」所から話が始まる。鷹央の嘗ての"恋人"だったという燐火は現在、帝都大学で客員教授として授業を行っていた恩師・九頭龍零心朗の妻と成っている。零心朗は半年程前に交通事故で重傷を負い、今は植物状態と成っているのだが、燐火によれば「交通事故は仕組まれた物で在り、犯人は零心朗が前妻との間に儲けた3人の子供達の誰かではないか?」と言うのだ。零心朗自身が事故に遭う以前から「莫大な財産を狙って、自分は殺されるか、意思決定が出来ない状況にされるかも知れない。其の時には"容疑者"を屋敷に集めた上、天才・天久鷹央を呼んで、『誰が犯人なのか?』を突き止めさせて欲しい。」と、彼女に依頼していたとも。唯、交通事故が事件で在る証拠は全く無い。そんな状況。
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閉じ込め症候群:意識は清明で在るが、眼球運動と瞬きを除く略全ての随意筋が完全に麻痺しており、身動きや言葉による意思疎通が不能で在る状態。眼球運動で意思疎通が出来る程度には認知機能に障害が無い。脳波検査の結果は正常。
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現役の医師だけで在って、医療に関する記述が溢れていて、尚且つ判り易い。そういう意味では非常に勉強に成るのだが、「普通のミステリーは、作中に示された手掛かりを元に、"誰も"が其の真相に辿り着ける"可能性"が在るのに対し、此の作品のトリックは"医学に付いて深い知識"が在って、初めて解ける。」形式というのが、人によっては「アンフェアだ。」と感じるかも。でも、詳細な説明が為されているので、納得出来るトリックでは在る。
犯行動機は、極めて異常。偏執的な動機と言え、此の点でも「納得行かないなあ・・・。」と感じる読者も居そう。
唯、読み物としては非常に面白く、総合評価は星4つ。