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東京産業銀行で与信判断をメインに行って来た大原次郎(おおはら じろう)。しかしリストラに遭い、31歳の今は失業中の身。独身で、ローンを抱えている訳でも無いから、新しい職に高望みをしていないのだが、不況の波は深刻で、就職先が全く決まらない。
或る日、再就職活動中に金融絡みの難題に付いて、相談を受けた次郎。此れ迄の経験と知識を生かし、“金融探偵”として怪事件を鮮やかに解決して行く。
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「金融探偵」というタイトルが面白くて、つい手に取ってしまった。著者が元銀行員の池井戸潤氏と判り、此の一風変わったタイトル付けに納得。
7つの短編小説から構成されているのだが、「金融」という単語が冠されている割には、“金融に関する記述”はそんなに多く無い様に感じた。又、他の池井戸作品に比べると、登場人物達の“キャラ立ち度”が低く感じられたのも残念だった。
文豪・島崎藤村氏と或る日本人画家との関係を描いた「誰のノート?」及び「藤村の家計簿」は時空を超えたミステリアスさが在って興味深かったが、一番印象に残った作品は「眼」。手塚治虫氏の代表作の1つ「ブラック・ジャック」に「春一番」という作品が在り、其れと非常に似たテーストだったから。最後の最後に待ち受けている大どんでん返しは予想外で、後味の悪さは残るものの、読ませる内容だった。
唯、全体的には“小粒感”が否めず、池井戸作品としては物足りなさを感じた。
総合評価は、星3つ。
昔は作家という職業に憧れた時期も在り、小説擬きを書いた事も在りますが、自分で読み返してみても顔が赤くなる程、非常に稚拙な内容でした。其れを考えると、著作を生業にするというのは、本当に大変な事。自分では「良い出来。」と思っても、多くの読者の心を掴み、売れなければ駄目なのですから。
ヒット作を生み出しても、以降、コンスタントに一定レヴェルの作品を書き続けて行けるというのは、天賦の才以外に途轍も無い労力を要する事でしょうね。東野圭吾氏や池井戸潤氏等は、高いレヴェルの作品をコンスタントに生み出している範疇の作家では在りますが、其れでもマヌケ様が指摘されている様に、時には「嘘だろ・・・。」と感じてしまう残念な出来の物も在る。「超人と思っていたけれど、必ずしもそうじゃなかったんだな。」と、“良い意味で”人間らしさを感じたりもします。
「賢者は誰でも判る様に優しい言葉で説明する事に気を配り、自身の手柄を誇る事もしない。しかし愚者は意識して難解な言葉を用いて自身を大きく見せようとしたり、何でも彼んでも自身の手柄として誇ろうとする。」、そんな言葉を吐いた人が居ましたけれど、「アベノミクスだ何だと態々難解な言葉を用いて“実態”を誤魔化し、何でも彼んでも『アベノミクスの成果です!』と誇る何処ぞの幼稚な“裸の王様”の姿を見ていると、「此の国は、本当に大丈夫かな?」と寒々しい思いになってしまいます。