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「首折り男」に度肝を抜かれ、「初恋」に惑って「怪談」に震え、「昆虫」は覗き見され、「合コン」では泣き笑い。「悪意」が黒澤を襲い、父は子の為「復讐者」となる。
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伊坂幸太郎氏の「首折り男のための協奏曲」の帯に記された惹句。同本は、7つの短編小説から構成されている。とは言え、後書きで伊坂氏自身が「特定の主人公や設定で統一した短編集とは少し違いますし、短編毎に趣向が異なっている。」と記している様に、「何となく繋がっている様で、俯瞰すると其れ其れで完結している作品。」だ。
「アヒルと鴨のコインロッカー」等、伊坂作品にはインパクトが在るタイトルの物が結構在るのだけれど、此の「首折り男のための協奏曲」は一度目にしたり耳にしたりしたら、ずっと忘れられない程に強烈なインパクトが在る。
登場人物達の会話が微妙に噛み合わなかったり、現実離れしたシチュエーションが“普通に”描かれていたり、人や事物が意外な関係性を持っていたりと、“伊坂ワールド”は健在。「個性的な作風」、踏み込んで言えば「灰汁が強い作風」とも言え、普通の書き手ならば読み手は「又か・・・。」と飽きてしまうものだが、そうさせないのは伊坂氏の筆致力の高さ故なのだろう。
当ブログでは過去に、伊坂作品を幾つかレヴューしているが、其れ等の評価は決して高く無い。一般的な評価の高さからすれば、可成り低い評価とも言える。所謂“伊坂ワールド”との肌合いが余り良く無いというのが理由なのだけれど、此の「首折り男のための協奏曲」は、自分の感性に訴えて来る物が非常に在った。
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「いや、人間も動物と同じだろう。冷静に論理的に行動するばかりではない。ローレンツが引用した『軍旗がひるがえると、理性がラッパを吹き鳴らす。』というウクライナの諺は、動物にも人間にも当てはまる。」。「ラッパ?それ、どういうことですか。」。「熱狂こそが、攻撃性を生み出す。そして一番、熱狂を生み出すために簡単なのは。」、黒澤は表情を崩さず、言う。「敵を作ることだ。俺たちはこのままではやばいぜ。このままだとやられてしまうぞ、と恐怖を煽る。怒りは一過性だが、恐怖は継続する。恐怖に立ち向かうために、熱狂が生まれる。さらに言えば、敵自体はいなくてもいいんだ。ローレンツも言っている。架空の敵を用意して、旗を振れば、理性がラッパを鳴らす。そういう仕組みだ。」。
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「人間らしく」という作品の中の記述。色々考えさせられる内容の作品が並ぶ中、最もグッと来たのは「僕の舟」という作品だったが、一番印象に残ったのは、此の記述だった。
手塚治虫氏の初期作品に、「化石島」というのが在る。数々の奇岩で知られる化石島に上陸した3人が、其れ其れ同島で見た“夢”を描いた作品で、夢の中での“映像”は推理小説風だっり、西部劇風だったり、少女漫画風だったりする。又、夢の部分は「ディズニー調」、現実は「写実的な線画」といった具合にタッチが使い分けられる等、実験的な意味合いが強い作品でも在るのだが、“良い意味で”其れと似た匂いを感じたのが「合コンの話」という作品。伊坂氏が小説を“組み立てて行く過程”が垣間見られる様で、非常に面白かった。
伊坂作品には厳しい評価を下し続けて来た自分だけれど、此の作品に関しては、総合評価を星4つとする。
虐めや卑怯な行為に対して、必ずしも全てに罰が下る訳では無い。では、此の世の中に神も仏も無いのかと言えば・・・此の作品での「神と天罰の関係性を、クワガタで譬えた部分。」は、物事を斜に見る自分でもすっと納得出来る程、実に上手い表現でした。
テースト的には似た感じなのだけれど、何の作品もマンネリ感を与えない。伊坂氏の引き出しの多さというのも、影響しているのでしょうね。