古くからのプロ野球ファンならば、「カープは、鯉幟の季節迄」というフレーズを御存知だろう。「開幕から好調で在っても、カープの勢いはこどもの日辺り迄しか続かず、其の後は急失速する。」という、揶揄を込めたフレーズ。確かにそういった時代も在ったが、近年は「『勢い』が出せない儘、シーズンを終えてしまった。」という状態だった。
しかし、昨季のカープは勢いを取り戻し、最終的にAクラス入りを果たす。そして今季、開幕から絶好調のカープは首位を維持し、優勝を充分狙える感じだ。チームが絶好調の理由は幾つか在ろうが、其の1つに「投手陣の良さ」が在る。
**********************************
「広島投手陣支える異色のスタッフ スコアラーから転身した畝コーチ」(4月24日、夕刊フジ)
23年振りの優勝を目指す広島は、23日のヤクルト戦(神宮)に勝って首位を堅持。リーグ断トツのチーム防御率2.87を誇る投手陣の陰には、新任の変わり種コーチの存在が在る。
畝龍実(うね たつみ)投手兼分析コーチ(49歳)。氏名も珍しいが、肩書も珍しい。
現役時代は変則的な横手左腕だったが、プロ4年間で通算7試合&0勝0敗。引退翌年の1993年から昨季迄、21年間スコアラー一筋。特に1988年ドラフト同期の野村監督からの信頼は厚く、昨季迄はベンチで指揮官の隣が指定席だった。
データ分析等、スコアラー本来の職務の他、「動作解析のエキスパート」と言われ、投手・野手を問わず、好調時と不振時のフォーム映像を見比べ乍ら、選手にアドヴァイスを送る特殊技能を評価されていた。今季からコーチの肩書を与えられ、引退後初めてユニホームに袖を通している。職場はベンチの監督の隣から、ブルペンへと移った。
「去年迄は、選手にアドヴァイスするにも、本職のコーチに遠慮が在って、言いたい事の半分も言えなかった。今年は思う存分遣れている。コーチの肩書を貰った御蔭で、試合だけで無く、選手の練習も見られる。『此の投手は試合では自信を持てなくて使っていないが、実はこんな球種も持っていたのか。』といった発見が在る。」と手応えを感じている。
知る人ぞ知る、昭和の香りを残すイケメンでも在り、周囲には「西城秀樹そっくり。」との声も。
そんな畝コーチの一押しは、6年目の今季急成長を遂げ、中継ぎで活躍中の中田廉。今季8試合に登板して、13回1/3を投げ、無失点を続けている。
「去年迄はストレートが“御辞儀”していたが、今季は逆にスピンが掛かり、打者から見てホップしてくる様な伸びが在る。」と畝コーチ。目立たないが、“畝効果”はじわじわと広がっている様だ。
**********************************
過去に書いた様に、「選手としては実績を残せなかったけれど、指導者として成功した。」というケースは結構在る。失礼乍ら畝コーチの場合も、選手としては実績を残せなかったけれど、指導者として手腕を発揮し出しているという事だろう。
「物は宜しき所在り、材は施す所在り。」という故事成語が在る。「物には、其れ相応の使い道が在る。人材も適した地位や仕事を与えなければ、役に立たない。」という意味だ。
仮令コーチとして素晴らしい能力を有していても、仕える監督が「其のコーチが持てる能力を、最大限に発揮出来る環境。」を与えられなければ駄目。「最初は其の能力を余り買っていなかったけれど、チーム状態が低迷し続けた事で、橋上秀樹戦略コーチのアドヴァイスを聞き入れる様にした所、チーム状態が好転し、ジャイアンツを優勝に導いた原監督。」というケースも在る。野村監督と畝コーチとは、「上手く“嵌った”。」と言えるのだろう。