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1952年、サンフランシスコ講和条約発効直前。東京都内の駐在所が爆破される。死者は2名。1人は駐在巡査、もう1人の身元は不明。刑事の高峰靖夫(たかみね やすお)は、共産党過激派の関与を睨むが、秘密主義の公安から情報が流れず、捜査は難航。高峰は、親友で公安に所属する海老沢六郎(えびさわ ろくろう)に協力を仰ぎ、共同戦線を張って真相に近付こうとする。だが、飽く迄“個人への犯罪”として捜査する「捜査1課」に対し、“事件を利用して過激派の瓦解”を目論む「公安1課」という相反する立場が、2人の関係に影を落とす。
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堂場瞬一氏は、警察小説を十八番とする小説家。小説「動乱の刑事」は「焦土の刑事」の続編で、戦後間も無い日本を舞台にしている。「捜査1課の刑事・高峰靖夫。」、「戦時中は特別高等警察(特高)に在籍し、現在は公安1課に属する海老沢六郎。」、そして「新聞社で記者をしている小嶋学(こじま まなぶ)。」の3人は、子供の頃からの親友だが、置かれている立場の違いから、微妙な間柄となっている。
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二人が拠って立つ正義。高峰の場合は、社会や政治情勢がどうであろうが変わらぬ不変の正義。それに対して海老沢が選んだのは、体制によって解釈が変わる正義だった。
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“戦争”の存在は、人を大きく変える。3人も例外では無く、“正義”という物に対しても、高峰と海老沢の間では、考え方が上記の様に大きく異なる。高峰の場合は「個人が存在してこそ、社会が存在し得る。」と、そして海老沢の場合は「社会が存在してこそ、個人が存在し得る。」という考え方で在り、海老沢の考え方は突き詰めれば「社会を守るには、個人の幸せが阻まれても仕方無い。」という事になろう。
“着地点の無い作品”という感じ。3人の幼馴染みの思いは交わりそうで、結局は交わらないから。なので、読後には“何とも言えない煮え切らなさ”が残る。時代が持つ匂いが感じられるのは良いのだけれど。
総合評価は、星3つとする。