************************************************
ライターの大路亨(おおじ とおる)は、癌を患う元新聞記者の父・松江準平(まつえ じゅんぺい)から「辻珠緒(つじ たまお)という女性に会えないか?」と依頼を受ける。一世を風靡したゲームの開発者として知られた珠緒だったが、突如姿を消していた。珠緒の元夫や大学の学友、銀行時代の同僚等を通じて取材を重ねる亨は、彼女の人生に昭和31年に起きた福井の大火が大きな影響を及ぼしている事に気付く。
************************************************
「デルタの羊」(総合評価:星3つ)は今一つな出来だったが、「罪の声」(総合評価:星5つ)と「歪んだ波紋」(総合評価:星4つ)は高い評価を付ける事が出来たので、塩田武士氏の小説「朱色の化身」を手に取った。
「昭和31年、福井県の芦原温泉は大火に見舞われ、300棟以上が消失し、温泉街は烏有に帰した。」という歴史的事実が在る。「朱色の化身」は、此の実際に起きた大火の記述から始まる。
“高い筆力”を感じさせるのが塩田作品の特徴だが、今回の作品は全然駄目。「登場人物が余りに多く、きちんと整理されていないので、読み進めるのがしんどい。」し、「不必要に感じられる記述が多い(大火の描写も、結果的には“結末”に関係しているものの、“絶対的な必要性”が感じられなかった。)。」ので、読んでいて苛々する。一方、「話の展開が読めてしまう部分が少なからず在る。」ので、作品の駄目さ加減が際立ってしまう。
人は色々な面を持っており、一面からだけでは判断出来ない。理解していた事では在るけれど、今回の作品で改めて痛感させられた。
総合評価は、星3つとする。