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小川春香(おがわ はるか)、16歳。3歳で母に捨てられた彼女は、育ての親で在る祖母も亡くし、正真正銘の独りぼっちだ。そんな彼女が出会ったのが、走馬灯を描く旅をアテンドする「ブレーメン・ツアーズ」。御調子者の幼馴染み“ナンユウ”と共に、仕事を手伝う事に。認知症を患った老婦人が、息子に絶対に言えなかった秘密。ナンユウの父が秘めていた、早世した息子への思い。様々な思い出を見た彼女は。人の記憶の奥深さを知る。そんな折、顔も覚えていない母から「会いたい。」と連絡が来るのだが・・・。
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重松清氏の小説「はるか、ブレーメン」は、「他人の過去が、“映像”として見えてしまう人達。」が登場する。「相手の背中に触れる、もっと“高能力な人”の場合は、相手の背中を見ただけで、其の人の過去が映像として見えてしまう。其れも“其の人にとって大事では無いと考えている過去の映像”はモノクロ、一方、“大事と考えている過去の映像”はカラーで見える。」という、実に不思議な設定。死に際に見るとされる「走馬灯」だが、彼等は其の走馬灯に“亡くなる人が大事と考えている過去”だけを描く(残す)“絵師”なのだ。
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・「大切な思い出は、正しい思い出とはかぎらないからです。」。正しくなくても―世間の常識や道徳に反していたとしても、その人にとって大切な思い出は、ある。「人は間違えます。間違ったことをしてしまいます。でも、それがとても大切になるときだってあります。間違ったことをすべて切り捨てていったら、大切なことが残らなくなってしまうかもしれない。」。
・「私は、人間には三つの力があると思う。」。一つめは、記憶する力。でも、記憶していても、それはデジタルと違って、薄れたりぼやけたりする。だから、二つめは、忘れる力になる。そして、三つめ―。「なつかしむ力だ。」。
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認知症を罹患し、先が長く無い老婦人。彼女の孝行息子は、「ブレーメン・ツアーズ」に“最後の旅”を依頼する。彼女には記憶から抜け落ちた“と思われる”5年間が在るのだけれど、“絵師達”によって其の内容が明らかとなる。彼女にとっては“家族に隠したかった過去”だが、同時に“大切な過去”でも在るのだ。そういう“見たくも無い過去”をも見なければいけない“絵師”という仕事、とてもしんどいと思う。
「流星ワゴン」等、重松氏の作品には「読み終えた後、心がホンワカとさせられる物。」が多いけれど、此の作品もそんな1つ。総合評価は、星3.5個とする。