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「御前なら、屹度本を取り戻せる筈だ。」。
幸崎ナナミ(こうさき ななみ)は、13歳の中学2年生で在る。喘息の持病が在る為、彼方此方遊びに出掛ける訳にもいかず、学校が終わると1人で、図書館に足を運ぶ生活を送っている。其の図書館で、最近、本が無くなっているらしい。館内の探索を始めたナナミは、青白く輝いている書棚の前で、翡翠色の目をした猫と出会う。
「何故、本を燃やすんですか?」。
「一番怖いのは、心を失う事じゃ無い。失った時に、誰も其れを教えてくれない事。誰かを蹴落とした時に、『其れは駄目だ。』と教えてくれる友達が居ない事。詰まり、独りぼっちだって事。」。
ようこそ、新たな迷宮へ。
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夏川草介氏の小説「君を守ろうとする猫の話」は、2017年に上梓された同氏の「本を守ろうとする猫の話」(総合評価:星4つ)の続編。「本を守ろうとする猫の話」では主人公だった高校生・夏木林太郎(なつき りんたろう)も、今回は夏木書店の店主となって、“脇役”として登場している。
「喘息持ちの中学生・ナナミを主人公とし、人間の言葉を理解&話せる猫と共に、“本の危機”を救うべく立ち上がる。」というストーリー。古代中国の秦代に発生した思想弾圧事件「焚書坑儒」を思わせる設定と、「不思議の国のアリス」の様な世界観を窺わせる。
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・「僕は人とともに長い時間を歩んできた。勝者も敗者も数え切れないほど見てきた。そして気がついたんだ。共感や同情がいかに人間を非力な存在にしてしまうかにね。世の成功者たちを見ればわかるだろう。想像力をかけらでも持ち合わせている者がひとりでもいるだろうか。彼らにあるのは、他者を容赦なく薙ぎ倒す決断力だけだ。彼らこそ本の力から解放された、もっと自由な者たちだ。」。
・「今の競争社会のもっとも恐るべき点は、手段を選ばない熾烈な戦いが繰り広げられているという点じゃない。競争に参加することを拒んだ者たちまで、無条件で敗者にしてしまう凄まじい『強制力を持っている』という点だよ。」。
・「己の欲望を追求し、より多くの富を貯め、より多くの快楽を手に入れる。そんな風に欲望のままに生きることが『自由』と言われる時代だ。そうでない時代もあったのだよ。欲望をコントロールし、欲望から自由であることこそが、真の『自由』だと定義された時代もあった。だがそれも過ぎ去りし日の思い出だ。もはや後戻りはできない。戻れないほどに、私の力は大きくなってしまった。」。
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「本を愛し、本から何かを学び取る。」という人が減って来ている今、そういう人が多数派を占める世界はどうなってしまうのか?そんな危機感を覚えたからこそ、夏川氏は此の作品を書き上げたのだろう。
そういう夏川氏の強い危機感は理解出来るのだが、残念なのは「ストーリー的に深みが感じられない。」事だ。「強い危機感が在る筈なのに、ストーリーは結構淡々と進んでいる。」という“ギャップ”が、作品への集中力を減じさせた。
総合評価は、星2.5個とする。