「週刊現代」に連載中のコラム「今週の『へえ~、そうなんだ』」。3月25日号は「ゴキブリの名前の由来はゴキカブリの誤記だった」というタイトルで、ゴキブリに付いて取り上げている。
「嘗ては霜焼けや雪焼け、風邪、胃腸病、寝小便等の薬として飲まれていた。」そうで、「人間の致死量の数十倍もの放射線を浴びても生き延びられる。」というゴキブリ。3億年も前から存在し続けている事でも知られている、実にタフな生き物だ。
平安時代の漢和薬名辞典「本草和名」には、「阿久多牟之(あくたむし)」、「都乃牟之(つのむし)」と言う名前で記されている。「阿久多牟之」は「塵を漁る虫」、「都乃牟之」は「触角の在る虫」をいう意味で、当時の人もゴキブリに余り良い印象を持っていなかった様だ。
そして江戸時代になると、当時の百科事典「和漢三才図会」には「油虫(あぶらむし)」と「五器嚙(ごきかぶり)」という名前が登場。「油虫」は、「脂ぎった様に見える体に由来。」。又、「五器嚙」の“ごき”は「御器」とも言い、食べ物を盛る器の事。“かぶり”は「齧る」という意味で、「器に盛られた物許りか、其の器迄をも齧る様子。」から、「五器嚙」という名前が付いたとか。
で、1884年に出版された生物学の辞典「生物学語彙」は、生物の名前を英語で記し、其の隣に和名を入れる体裁で書かれているのだそうだが、此の本のゴキブリの項目で、「蜚蠊」(中国で使用されていたゴキブリの名称。)と漢字で書いた際、振り仮名から「ごきかぶり」の“か”の字が脱落してしまい、此の後に出版された生物の教科書でも此の表記が踏襲され、何時の間にか一般に「ゴキブリ」が定着。
其の後、日本語で書かれた最初の昆虫学の専門書「日本昆虫学」でも「ゴキブリ」が使われ、此の名前は学会にも確り根を下ろしてしまった。其の事を(今話題の)植物学者・牧野富太郎氏は或る雑誌で、「ゴキブリでは意味を成さぬ!」と痛烈に野次ったとか。