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秋の夜、下町の庭園での虫聞きの会で殺人事件が。殺されたのは、僕の同級生のクドウさんの従姉だった。被害者には、少女売春組織との関わりが在ったらしい。無責任な噂が後を絶たず、クドウさんも沈み勝ち。大好きな彼女の為に、僕は親友の島崎(しまざき)と真相究明に乗り出した。中学生コンビの推理の行方は!?
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直木賞の選考委員を務める等、今や“文壇の大御所的存在”となった宮部みゆきさん。彼女が文壇デビューを果たしたのは、33年前の1987年。今回読了した「夢にも思わない」という彼女の作品は、「親友『島崎君』シリーズ」の第2弾。初めて上梓されたのが1995年という事なので、デビューから8年目の作品という事になる。
「従姉が殺害され事で沈み勝ちとなったクドウさんの為、彼女に恋心を抱いている同級生・緒方雅男(おがた まさお)は、親友の島崎と共に“調査”に乗り出す。」というストーリーで、登場するのは雅男を中心とした中学生達。文体も“ツライ”とか“ムツカシイ”といった風に、片仮名が意識的に使われる等、全体的に“ジュヴナイル物”といった感じ。
“相当に出来た人”で無い限り、人間は誰しも“悪意”を持っていると思う。“強烈な悪意”も存在すれば、自身では「大した事では無い。」と思っている事が生み出した“些細な悪意”も存在する。「そんな様々な悪意を題材にして、作品を仕上げて行く。」のが、宮部さんは非常に上手い。「杉村三郎シリーズ」もそうだが、様々な悪意が人の運命を変えて行く展開で、読み終えた後には、“澱”が心に残る。事件が解決したすっきり感をも上回る、どうしようも無い程のモヤモヤ感(イヤミスとは、又違った感覚。)と言ったら良いだろうか。
今回の「夢にも思わない」も、そんな感じだ。「救い様の無い感じの人だけれど、結局は救いが感じられる部分も在るのだろうな。」という期待が、完全に裏切られる。そして、「些細な悪意が生み出す最悪の結末。」というのも合わさり、どうしようも無い程のモヤモヤ感が残るのだろう。
“謎解きの面”では、「まあまあかな。」といった感じ。総合評価は、星3つとする。