ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「県庁おもてなし課」

2013年07月02日 | 書籍関連

*********************************

地方には、光が在る。物語が元気にする、町、人、恋。

 

高知県庁観光部に突如生まれた新部署「おもてなし課」。観光立県を目指すべく、入庁3年目の25歳・掛水史貴(かけみず ふみたか)は、振興企画の一環として、地元出身の人気作家・吉角喬介(よしかど きょうすけ)に観光特使就任を打診するが・・・。

 

「馬鹿か、あんた等は。」。吉角から行き成り浴びせ掛けられた言葉に、掛水は思い悩む。一体、何が駄目なんだ!?掛水とおもてなし課の、地方活性化掛ける苦しくも輝かしい日々が始まった。

*********************************

 

高知県出身の作家・有川浩さんが、故郷を舞台にして書いた小説「県庁おもてなし課」。「新幹線が無い。地下鉄が無い。モノレールが無い。ジェット・コースターが無い。スケート・リンクが無い。ディズニーランドUSJも無い。フード・テーマ・パークが無い。Jリーグのチームが無い。ドーム球場が無い。プロ野球公式戦ナイターが出来ない。寄席が無い。2千人以上の屋内コンサートが出来ない。中華街が無い。地下街が無い。温泉街が無い。」と、正に無い無い尽くし”の高知県。約30年前にヒットした曲「俺ら東京さ行ぐだ」(動画)の歌詞を思い出させる状況の中、「此れではいけない。」と観光立県を目指し、観光部内に「おもてなし課」が誕生するのだが、遣る事が兎に角御役所仕事”。

 

一般企業と役所の違いは色々指摘されているが、一番の違いは「コスト意識」だろう。昔に比べたら役人の意識も、大分“良い方向に”変わって来たとは思うが、其れでも一般企業と比べたら、どうしても“温さ”を感じてしまう事が結構在る。生き馬の目を抜かなければ倒産解雇が待ち受けている一般企業とは異なり、役所の場合は時間の浪費=金銭の浪費という概念が、概して希薄。吉角から行き成り、そういった意識の無さを指摘された若手職員の掛水は、強いカルチャー・ショックを受ける。

 

*********************************

だって大事ですよ。どればあ立派な施設でも、トイレが汚かったらそれだけで興醒めやし。。「そのとおりやわ。男はトイレのことに無頓着すぎるがよ。」。意外なことに佐和(さわ)が積極的に加勢し、掛水は佐和の勢いに慄きながら引き加減になった。お風呂や厨房もそうやけど、水回りが汚いのは女にとって最大のNGで。うちも宿の手入れで一番神経を使うがは水回りやもん。水回りで失格したら、絶対に女性のお客さんはリピーターになってくれんき。チャック下して引っ張り出すだけの男と一緒にせんといて。

*********************************

 

「水回り云々」の記述には、「其の通りだよなあ。」と頷いてしまった。「普段見慣れていて『珍しくも何とも無い。』と思っている事柄でも、“環境が異なる人達”にとっては非常に魅力的に感じる事も在る。」とか、「『利用者が、真に欲している物は何なのか?』が大事で在って、『自分達が此れだけ遣っているんだから、利用者も当然満足してくれる。』という思い込みは駄目。」等、改めて認識させてくれる内容が多く、顧客満足(CS)」を学ぶ良い教科書でも在る。

 

*********************************

「現実問題としてはな。けんど、イナカには金がないがよ。やき、失敗したら立て直しが利かんがやないろうかと臆病になる。」。

 

都会には何だかんだで人と金が集まる。住民税法人税絶対量がイナカと違う。都会は都会であることを担保資金繰りができるのだ。

 

それに、社会の注目度も違う。都会の破綻日本中枢を直撃するが、地方の破綻は全体への影響が少ない。同じ破綻でも都会とイナカでは国の対処が変わってくるだろう。少なくとも破綻したイナカが厚く措置されることはない。

 

イナカはあらゆる側面で都会よりリカバリーが利きづらいのだ。

*********************************

 

「『も此れも備えなければならない。』となったら、幾ら資金が在っても足りない。→唯でさえ資金が無い田舎では、一寸した失敗でも財政に大きな打撃を与え兼ねない。→だから田舎では、新たに挑戦する事にどうしても消極的になってしまう。→田舎は益々落ちぶれて行ってしまう。」という悪循環が在る。「金が無ければ、知恵を出せば良い。」とは良く言われる事で、此の考え自体は正しいのだけれど、「上手い知恵」が中々浮かばないというのも現実。(高知県の)馬路村具体的な取り組みが「県庁おもてなし課」の中で紹介されているが、非常に参考になった。

 

吉角達により、おもてなし課の職員達の意識がどんどん変わって行く事に、新鮮さを感じた。キャラクターの設定が上手い。又、「『或る人間が、或る時期から、会議で積極的に話さなくなった。』事が、後になって『そういう理由だったんだ。』と読み手に判らせる等、伏線の張り方も実に細やか。そして何よりも、故郷・高知県に対する有川さんの深い愛情が感じられ、読んでいて幸せな思いに包まれる作品だ。

 

総合評価は、星4つとする。


コメント    この記事についてブログを書く
« ウエディング・ソング!? | トップ | 勝って兜の緒を締めよ »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。