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謂れ無き罪により、大手都市銀行「東京首都銀行」を首となった恋窪商太郎(こいくぼ・しょうたろう)。切れ者で次長職に在った彼だったが、金融界への再就職は困難を極めた。謂れ無き罪が、大きく影響していたのだ。
何とか地方銀行「東都南銀行」に再就職を果たした恋窪。しかし其の職は庶務行員で、駐車場での整理やフロア案内がメイン。エリートとして働いて来た彼にとっては、全く異なる環境での再出発だったが、融資に悩む後輩社員・松木啓介(まつき・けいすけ)へアドヴァイスする等、以前よりも人間らしい、充実感を覚える日々を送っていたが・・・。
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元銀行員の作家・池井戸潤氏が、9年前に上梓した小説「仇敵」。東京首都銀行の企画部次長職だった恋窪が退社に追い込まれたのは、常務取締役・峰岸駿平(みねぎし・しゅんぺい)が絡む不正融資疑惑を追っていた際、峰岸が仕掛けた“罠”に嵌まった為だった。
出世を目指し、組織の上を虎視眈々と狙っていた東京首都銀行時代。其れから比べると、立場も給料も格段と下がってしまったけれど、充実した日々を送っていた恋窪の前に仇敵の峰岸、そして其の片棒を担ぐ中島容山(なかじま・ようざん)の影がちらつく。
東京首都銀行に戻れる可能性は皆無だし、抑今の仕事に充実感を覚え、戻る気も全く無い恋窪だったが、「正義感」、そして何よりも「人としての矜持」を懸けて、“強大な敵”に立ち向かって行く。「オレたちバブル入行組」に始まる、所謂「オレバブ・シリーズ」と似たテーストでは在るが、「敵との関係性」で言えば、自分が好きな漫画「クロサギ」とも似た感じがする。
「経済」は自分が苦手とする分野の1つだが、銀行業務の一端が判り易く取り上げられていて、勉強になった。
「悪事」を憎む“味方達”と、「悪人」を徐々にに追い詰めて行くストーリー展開はスッキリ感を与えてくれる。実社会では中々そうは行かない現実が在るからこそ、又、恋窪達の前に次々と大きな障害が立ち塞がって行くからこそ、其のスッキリ感は余計に増す。
総合評価は、星3.5個。