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街の弁護士・衣田征夫(きぬた まさお)は、不慣れな殺人事件を担当する事になった。容疑者は、知人の峰岸諒一(みねぎし りょういち)。彼は妻・朱実(あけみ)の父で、養父でも在る峰岸巌雄(みねぎし いわお)宅に放火、殺害した疑いで逮捕された。現場には諒一のライターが落ちていて、巌雄を罵倒する声を聞いたという証言もある。更に、彼の顔と手には火傷の痕が・・・。
だが、諒一は否認を続け、弁護人の衣田にも詳細を話さない。そんな最中、朱実が別荘の地下にて、水死体で発見される。すると諒一は言った。「妻が死んだ以上、最早、秘密を守る必要は無くなりました。全てを御話しします。」。
と或る冤罪事件に端を発する連続不審死。複雑に絡み合う家族関係、見えない利害対立、そして狡猾な犯行計画。
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「2015本格ミステリ・ベスト10【国内編】」で、9位に選ばれた小説「殺意の構図 探偵の依頼人」。著者の深木章子さんは今年67歳で、執筆活動に入られたのは前職をリタイアされた60歳の時だとか。文壇デビューは3年前、即ち64歳という事だから、小説家としては可成り遅咲きな部類に入るだろう。
「60歳で前職をリタイア。」と書いたが、其の前職は何と弁護士。だから、弁護士を登場させた作品というのは、自家薬籠中の物と言える。
冤罪事件に端を発した連続死。其れも不可解な死許りというのだから、「どういう事なんだろう?」と読み手は興味をそそられる。第1章は弁護士・衣田、第2章は事件関係者で在る2人の女性、そして第3章は私立探偵・榊原聡(さかきばら さとる)という、其れ其れの視点から“事件”が語られて行く所も含め、「ストーリーの組み立て方が上手いなあ。」と感じる。(文章自体に、拙さを感じる部分が無くも無いけれど。)
タイトルの副題に「探偵の依頼人」と在るが、此の「依頼人が誰なのか?」に関しては、第3章に入ってから早い段階で想像が付いたけれど、読者の推理を次々に外すで在ろう展開は見事で在る。
朱実が水死する設定等、稍無理を感じる所は減点ポイントなれど、総合評価は星3.5個とする。