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【群れの中に一匹だけ、緑色の個体がいる。群れのすべてが緑色である。群れのすべてが非緑色である。この三条件を同時にみたすことのできる生き物は何か?】
11月4日午前8時30分。私立「瀬尾中学校」の2年4組に1人の男が侵入する。彼は2ヶ月前に娘を自殺で失い、その娘は同クラスの生徒だった。1人の女子生徒が、彼の行動を見て叫んだ。「皆逃げて!」。果敢に男に立ち向かう彼女は、男から滅多刺しされて命を落とす。
事件後、警察で密かに行われた、或る特別な「再現」。其処から、思いも寄らない事実が明らかになって行く。一体この教室で、何が起こっていたのか?
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両角長彦(もろずみ たけひこ)氏の小説「ラガド 煉獄の教室」は、第13回(2009年)日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品だ。「ラガド」なる言葉が何を意味しているのか全く判らなかったのだが、小説内では「(ラガドは)『ガリバー旅行記』に出てくる都市の名前です。何百人という科学者たちがこのラガド市で研究をしているんですが、そのすべてが空理空論で、具体的な成果はなにひとつあがらないんです。膨大な研究費だけが、まったくむだについやされ続けるんです。」と説明されている。子供の頃に「ガリバー旅行記」は読んだけれど、それは全体のほんの一部だけ。「『小人の国』と『巨人の国』の話は知ってるんだけど・・・。」と、自分と同じ状況の人も多いのではなかろうか。又、「煉獄」とは、「カトリック教会の教義で、天国と地獄の間に在り、死者の霊魂が天国に入る前に火によって罪を浄化されると考えられていた場所。」を指す。読み始めた時には全く意味不明なタイトルに思えたが、読み終えて「嗚呼、成る程ね。」と合点がいった。
事件発生時、教室内の生徒達の配置や動線が時系列に図示されている。その数は93枚にも上り、この事で読み手が各生徒達の視線で状況を把握し易くしているし、臨場感を高める効果を果たしている。ストーリー展開も小気味好いし、こういった点だけでも日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したのは頷ける。
唯、惜しむらくは話の半ば程で、「或る人物と或る人物の関係性」が読めてしまった事。それと折角の盛り上がりが、最後の“締め”で萎んでしまった事も否めない。もっと別の形で締めも在ったのではないか?
時の権力者が国民に対して「許されざる行為」をしていた事が、後になって判明するというのは珍しくは無い。それが「人体実験」だったり「盗聴」だったり「世論誘導」だったりする訳だが、「まさか、そんな事迄する筈が無い。」という事が、往々にして起きていたりするのだ。小説内で登場する謎掛けを冒頭に記したけれど、その答えと意味合いを読むとぞっとする物が在った。
総合評価は星3つ。
【群れの中に一匹だけ、緑色の個体がいる。群れのすべてが緑色である。群れのすべてが非緑色である。この三条件を同時にみたすことのできる生き物は何か?】
11月4日午前8時30分。私立「瀬尾中学校」の2年4組に1人の男が侵入する。彼は2ヶ月前に娘を自殺で失い、その娘は同クラスの生徒だった。1人の女子生徒が、彼の行動を見て叫んだ。「皆逃げて!」。果敢に男に立ち向かう彼女は、男から滅多刺しされて命を落とす。
事件後、警察で密かに行われた、或る特別な「再現」。其処から、思いも寄らない事実が明らかになって行く。一体この教室で、何が起こっていたのか?
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両角長彦(もろずみ たけひこ)氏の小説「ラガド 煉獄の教室」は、第13回(2009年)日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品だ。「ラガド」なる言葉が何を意味しているのか全く判らなかったのだが、小説内では「(ラガドは)『ガリバー旅行記』に出てくる都市の名前です。何百人という科学者たちがこのラガド市で研究をしているんですが、そのすべてが空理空論で、具体的な成果はなにひとつあがらないんです。膨大な研究費だけが、まったくむだについやされ続けるんです。」と説明されている。子供の頃に「ガリバー旅行記」は読んだけれど、それは全体のほんの一部だけ。「『小人の国』と『巨人の国』の話は知ってるんだけど・・・。」と、自分と同じ状況の人も多いのではなかろうか。又、「煉獄」とは、「カトリック教会の教義で、天国と地獄の間に在り、死者の霊魂が天国に入る前に火によって罪を浄化されると考えられていた場所。」を指す。読み始めた時には全く意味不明なタイトルに思えたが、読み終えて「嗚呼、成る程ね。」と合点がいった。

事件発生時、教室内の生徒達の配置や動線が時系列に図示されている。その数は93枚にも上り、この事で読み手が各生徒達の視線で状況を把握し易くしているし、臨場感を高める効果を果たしている。ストーリー展開も小気味好いし、こういった点だけでも日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したのは頷ける。
唯、惜しむらくは話の半ば程で、「或る人物と或る人物の関係性」が読めてしまった事。それと折角の盛り上がりが、最後の“締め”で萎んでしまった事も否めない。もっと別の形で締めも在ったのではないか?
時の権力者が国民に対して「許されざる行為」をしていた事が、後になって判明するというのは珍しくは無い。それが「人体実験」だったり「盗聴」だったり「世論誘導」だったりする訳だが、「まさか、そんな事迄する筈が無い。」という事が、往々にして起きていたりするのだ。小説内で登場する謎掛けを冒頭に記したけれど、その答えと意味合いを読むとぞっとする物が在った。
総合評価は星3つ。
