インティマシー・コーディネーター

今は“大ヴェテラン”の域に在る或る女優が、嘗て“撮影現場でのショッキングな話”を暴露していた。彼女が若かりし頃、何人かの大物俳優の名前を挙げられた上、「此の人達と共演する際は、充分気を付けなさいよ。」と、“先輩達”から注意されたそうだ。“要注意俳優達”と共演して行く中で、「礼儀作法に、異常に五月蠅い人。（「自分の事を、必ず“先生”と呼びなさい。」と言われる等。）」だったり、「明らかに自分を潰しに掛かって来る人。」だったりと、「充分気を付けなさい。」と注意された理由が判って来たのだが、一番問題なのは「“セクハラ”なんてレヴェルでは片付けられ無い、“性暴力”としか思えない行為をを平然として来る人。」だった。

２人して布団に入り、“濡れ場”を演じる際、台本には“細かい遣り取り”が記されていないので、監督に確認すると、「“軽く”キスをして、其れから“軽く”身体を弄られている“様な”演技をしてくれれば良い。」との事。監督との遣り取りは相手のヴェテラン俳優・Ａ氏も聞いていたので、「では。」という事で撮影に入ったのだが・・・。

“軽いキス”という事だったのに、Ａ氏は舌を無理矢理口の中に入れて来て、執拗に“ディープ・キス”をして来た。大先輩という事でＡ氏のするが儘にさせていたのだが、次に彼はパンツ（勿論、「ズボン」では無く、「下着」の意味だ。）の中に強引に指を突っ込んで来て、女性器を触ろうとしたそうだ。布団で隠れている事を悪用しての性暴力。流石に彼女は何度も抵抗したが、Ａ氏は全く止め様としない。最終的に彼女は（布団に隠れている）Ａ氏の手の甲を抓り上げた事で、彼は其れ以上に及ばなかったそうだが、其のシーンの撮影が済んだ際、Ａ氏は悪怯れる事も無く、にやにや笑っていたと言う。

又、「今は其処迄酷くは無いけれど、昔は濡れ場のシーンになると、何故かスタジオ内の人がどっと増えた。明らかにスタッフでは無い人間も居たりして、本当に嫌だった。」とも、彼女は語っていた。

昨夜放送された「ｎｅｗｓ２３」で、「インティマシー・コーディネーター（以降、“ＩＣ”と略す。）」なる職業を取り上げていた。日本語に訳すと、「親密さの調整役」とでもなろうか。

自分もそうだが、此の職業の事を知っている人は、そう多く無いと思う。「映画やＴＶドラマの撮影で、俳優が裸になったり、キス・シーンや疑似性行為を行うシーンで、俳優の身体的、精神的な安全を守りつつ、監督の演出意図を最大限実現出来る様にサポートする人。」を指すのだとか。日本で此の資格を持つ人は、僅か２人だけ。

ＩＣは先ず、監督と台本の“性的シーンに関する”打ち合わせを行う。台本は一般的に筋書きだけで、衣装や細かい俳優の動き等は記されていない。だから、「性的シーンに関し、『どういったキスが必要なのか？』とか、『肌の露出や俳優同士の身体の密着度は、何の程度必要なのか？』等を細かく監督に確認し、摺り合わせを行う。」のだ。そして、「監督の演出意図を“事前”に、当該俳優に“具体的”に伝え、受け容れられるかどうかを確認。」し、同意が得られれば其の儘撮影。受け容れられない部分が在れば、其れを監督に伝え、摺り合わせを行う。

「監督の演出其の物に口出しをする。」というのでは無く、飽く迄も「監督や俳優を含めた現場の全員が、円滑に働ける様にする。」のが、ＩＣの役割。だから、性的シーンの際は、ＩＣと最低限のスタッフしか居ない現場（クローズド・セット）で撮影が行われ、監督は別室でモニターにて確認する体制。大昔の様に、「性的シーンの撮影になると、無関係な者も含め、どっと人が増えた。」なんて事は、ＩＣが介在する現場では在り得ないのだ。

海外では一般化しつつ在るＩＣだが、日本でも其の必要性が上がっている。「今年、大物監督やヴェテラン俳優が、“立場の強さ”を悪用し、“弱い立場”の俳優達に性暴力を行っていた事実が次々と明らかになった。」事が背景に在る。「弱い立場の者を守り、皆が快適な環境で素晴らしい作品を作る。」事を目的とし、ＩＣを介在させる現場が少しづつ増えているとか。

当該番組内では或る女優が、「現場に行って初めて『えっ！？こんな事迄するの？』という事が無くなった。」とＩＣの必要性を指摘していた。“真面な”作り手の側から言っても、意図しないトラブルを避ける意味から、ＩＣは重要な存在だろう。

唯、ＩＣを介在させれば、其れだけ予算は増える。予算が必ずしも潤沢とは言えない日本の撮影現場では、ＩＣの重要性は理解していても、「予算面から、簡単にはＩＣを使えない。」という事情も在る様だ。