「作風が好きになると、其の作家の小説を全て読み続ける。」という癖が、自分には在る。そういう作家は何人か居るが、亡くなられた方で言えば西村京太郎氏や今邑彩さん等が、そして現役の方で言えば東野圭吾氏や池井戸潤氏等が当該する。
唯、此の癖は飽く迄も“原則”で在り、例外も在る。「好きな作風とは余りにも異なり、受け容れ難い作品となってしまっている場合は、好きな作家で在っても読まない。」という事も在るのだ。海堂尊氏の場合で言えば、チェ・ゲバラ氏の人生を描いた「ポーラースター・シリーズ」は第1弾だけ読んだが、面白さを感じられなかったので、続編は全く読んでいない。他の海堂作品は全て読了ているが。
石田衣良氏の作品は、デビュー時から全部読んで来た。でも、今年の6月に上梓された「禁漁区」は、少し読んだけれど、読み続けるのを断念。「石田氏の“此の手の作品”は今後、読むのは止め様。」と決意した。“此の手の作品”とは、「過度な性描写が、執拗に登場する作品。」で在る。
過去に何度か書いた様に、石田作品の中には「『セックスを描く事は、人間を深く描く事だ。』とでも言いたい様な、余りに執拗な性描写に溢れるタイプの物。」“も”在ったりする。基本的には“エロ人間”の自分だけれど、性描写が余りにも執拗な小説には辟易としてしまう。今迄、そういうタイプの石田作品でも、「好きな作家だから。」という事で我慢して読了して来たけれど、もう限界だった。
そういうタイプ以外の石田作品は、心に響く物が少なく無い。最も好きなのは、彼のデビュー作「『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ」。「『日本の社会の闇、又、其の闇の中で藻掻き続けている弱者に光を当て、エッジの利いた表現力で描写している。』のが実に心地好い。」というのが、此のシリーズが大好きな理由。
今回読んだ「ペットショップ無惨 池袋ウエストゲートパークXVIII」は、同シリーズの第18弾。(他に2つの外伝が存在する。)
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目白の獣医を訪ねた“マコト”は、色々と問題を抱えているチワワを目にする。飼い主は其のチワワを、と或る
ペット・ショップで買ったと言う。「CGペット」は、ペット・ショップや病院、サロン等、「揺り籠から墓場迄」と、ペットに関する全ての業務をビジネスとする総合商社で、急成長している。だが、其の裏でマコトが目にしたのは、吐き気がする現実だった。
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「東京都・池袋西口公園近くの果物屋の息子・真島誠(まじま まこと)は、“池袋のトラブルシューター”とも呼ばれ、依頼された難事件を次々と解決し、住民の幸福と秩序の維持を目指す。」というのが、「『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ」のストーリー。今回の「ペットショップ無惨 池袋ウエストゲートパークXVIII」は、4つの短編小説で構成。「ヤング・ケアラー」、「外国人労働者」、「マッチング・アプリ」、そして「ペット業界」という4つのテーマが取り上げられ。其れ等の“闇の部分”が描かれている。
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・「昨日の夜、うちの店長・・・中崎(なかざき)っていうんですけど・・・が、売れなかったマルチーズを入れていたんです。餌に睡眠導入剤を入れて眠らせてから。フタはしっかりとロックしていました。」。まだ意味がわからなかった。子犬をクーラーボックスに入れて密閉する?どういうことなんだ。西沢(にしざわ)の目は血走っている。「ぼくが見ているのに気づいた店長がいうんです。うちの店ではこいつらの寿命は六ヵ月だって。かわいくなくなれば、もう売れない。売れても、値段はだだ下がりだって。」。口にしたくないが、どうしても確かめずにいられなかった。「その子犬はどうなるんだ?」。「今朝には窒息死していた。店長はマルチーズの死体をゴミ袋に入れて処分していました。ぼくを慰めるようにいうんです。ペットはクリスマスのケーキと同じだ。時期がすぎたら、商品価値はない。いつだって赤ちゃんの犬や猫がいるから、お客さんはうちにきてくれる。かわいくなきゃ駄目なんだ。おまえもこの仕事を続けていきたいなら、これができなきゃいけない。毎月給料もらってるんだろ。仕事だと思って、割り切るんだ。」。割り切って、仕事として、子犬を殺すのか。おれは西沢を見ていられなかった。洟をすすり、泣いている。
・白衣の職員がおおきな赤いボタンを押した。ガスの音がきこえる。ガラス窓越しに、コリーはおれを必死で見ていた。伏せをする。ちんちんをする。くるりと横に回転する。お手をする。なんとかガス室から助けてもらいたくて、自分ができる芸をすべておれに披露しているのだ。
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上記した文章は、表題作でも在る「ペットショップ無惨」から抜粋した物。最初の文章は、悪質なペット・ショップに勤務している店員の西沢翔太(にしざわ しょうた)が、“悍ましい現実”をマコト達に告白しているシーン。「こんな現実が、本当に在るのか!?」と驚かれる方も居られ様が、過去に何度かこういった話を、ペット・ショップで実際に働いていた(働いている)人物が、週刊誌等で“内部告発”している。少数で在るとしても、そういう現実が存在するのは間違い無い。
そして、2つ目の文章は、“殺処分場”で犬達が殺されるシーン。殺処分の記述はもっと多く、読んでいて涙が出た。西沢も殺処分に関わっている女性職員(=白衣の職員)も、共に動物が大好きで動物に関する職業に就いたのに、動物に関する悲しい現実に直面しなければばらないのが、堪らなく悲しい。ペット業界を巡る闇は、社会全体で改善しなければならない問題の1つだ。
「社会的弱者に温かい目を向け、無私の心で必死になって彼等を救い出すマコト。」は、今回も健在。“仲間達”との友情にも、グッと来る物が在る。読み終えてホッとした思いと共に、何とも言えない爽快感が湧いて来る。矢張り、「『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ」は良い。次作が待ち遠しい。
総合評価は、星4.5個とする。