*********************************
第1話「仮面の軌跡」
日中弓(ひなか ゆみ)は、借金の肩代わりに芦沢健太郎(あしざわ けんたろう)と交際を続けて来た。大企業の御曹司から見初められ、別れを告げるが、芦沢に2人の秘密を暴露すると言われる。
第2話「三枚の画廊の絵」
画廊を営む向坂善紀(こうさか よしのり)は4年前に離婚し、息子・匠吾(しょうご)の親権を手放した。高校2年生の匠吾には、抜群の芸術的センスが在る。本人も芸大進学を希望しているが、其の夢を阻む者が現れた。
第3話「ブロンズの墓穴」
佐柄美幸(さがら みゆき)の息子で在る小学3年生の研人(けんと)は、学校で虐めに遭い、登校拒否になってしまった。だが、担任の諸田伸枝(もろた のぶえ)は、虐めの存在を認めない。面会を拒否する諸田に、佐柄は業を煮やしていた。
第4話「第四の終章」
派遣社員の佐久田肇(さくた はじめ)は、隣室に住む女優・筧麻由佳(かけひ まゆか)の美しさに惹かれていた。其の佐久田の下へ、麻由佳が助けを求めて遣って来る。彼女の部屋で俳優の元木伊知朗(もとき いちろう)が、自殺し様としていると言うのだ。
第5話「指輪のレクイエム」
自宅でデザイン事務所を営む仁谷継秀(にたに つぐひで)は、認知症の症状が進む妻・清香(きよか)の介護に疲れ果てていた。仁谷は50歳、清香は70歳。こんな日が来る事を覚悟はしていたが、予想よりも早かった。
第6話「毒のある骸」
国立S大学の法医学教授で在る椎垣久仁臣(しいがき くにおみ)は、服毒自殺した遺体を司法解剖する際、事故を起こし、助教の宇部祥宏(うべ よしひろ)に大怪我を負わせてしまった。事が公になれば、自らの昇進が流れてしまう。
*********************************
長岡弘樹氏の小説「教場0 刑事指導官・風間公親」は、「教場シリーズ」の第3弾に当たり、冒頭で紹介した6つの短編小説から構成されている。「“教場”とは“警察学校に於けるクラス”を意味し、風間公親(かざま きみちか)は其処の担当教官の1人。」というのが第1弾「教場」及び第2弾「教場2」の設定だが、今回読んだ「教場0 刑事指導官・風間公親」の時代設定は前2作よりも以前、風間が未だ刑事として現場で働いていた頃を描いている。
「各署に居る経験3ヶ月の刑事が1名、定期的に本部へ派遣され、風間の下で3ヶ月間みっちり教えを受けるというシステムがT県警には存在しており、“風間道場”と呼ばれている。」という設定で、新人刑事達は風間の冷ややかな対応に怯えつつも、刑事としての能力を高めて行く。
「教場」及び「教場2」共に、自分の総合評価は星3つだった。「教場2」は兎も角、「教場」に対する一般的評価は非常に高かったのにだ。
で、今回の「教場0 刑事指導官・風間公親」だが、第4話「第四の終章」以外は、最初から犯人が明らかとなっている。「刑事コロンボ・シリーズ」や「古畑任三郎シリーズ」等で知られる“倒叙ミステリー”のスタイルだ。(自分は詳しく無いのだけれど、全6話のタイトルは「刑事コロンボ・シリーズ」に因んだ物らしい。)
犯人は既に判っているので、読者は犯人捜しで無く、犯人のアリバイ崩しやトリックを推理する事になる。其れが読者にとっての醍醐味となる訳だが、第6話「毒のある骸」はまあまあの内容も、他は正直今一つ。トリックや設定に“現実感”を余り感じられないのが、今一つと思ってしまう大きな理由だろう。各話に鏤められた蘊蓄の数々は、非常に勉強になったが。
総合評価は前2作と同様、星3つとする。