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4月。桜祭りで開放された米軍横須賀基地。停泊中の海上自衛隊潜水艦「きりしお」の隊員が見た時、喧噪は悲鳴に変わっていた。後に“レガリス”と呼ばれる事になる、巨大な赤い甲殻類の大群が基地を闊歩し、次々に人を襲い、そして食べ始めたのだ。
自衛官として問題児扱いされていた夏木大和(なつき やまと)三尉と冬原春臣(ふゆはら はるおみ)は、救出した子供達13人と潜水艦へ立て籠もるが、彼等は何故か“歪んでいた”。
一方、警察と自衛隊、そして米軍が駆け引きする中、機動隊は凄絶な戦いを強いられて行く。
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小説「海の底」は、著者の有川浩さん曰く「海の底から来た奴等」という意味のタイトルで、「奴等」とは環境の変化によって巨大化した“躄蟹擬き”を指す。所謂「自衛隊シリーズ」に当該し、先日紹介した「空の中」が航空自衛隊を題材にしているのに対し、「海の底」は海上自衛隊を題材としている。
「植物図鑑」では「植物」に対して、「図書館戦争」では「書籍」に対して、「県庁おもてなし課」では(有川さんの故郷)「高知県」に対して、「阪急電車」では「ローカル線」に対してと、様々な分野の事柄に深い愛情を見せる有川さんだが、「空の中」と同様に「海の底」では、「自衛隊」に対する深い愛情が垣間見える。其の知識も含め、“女・石破茂”といった感じ。
有川さん自身が「SF小説」というのに固執してしまった為なのだろうか、「空の中」は回りくどい記述が多い等、非常に読み難い所が在ったのだけれど、「海の底」は“良い意味で”エンターテイメントに徹した小説だと思う。一部にスプラッター映画的なシーンも見受けられるが、ストーリー展開が読者の関心をぐいぐい惹き付け、最後迄一気に読み進んでしまった。
「警察」及び「自衛隊」という“組織が抱える苦悩”をさらりと読者に訴える一方で、「夏木と(立て籠もった子供達の中の1人で、女子高校生の)森生望(もりお のぞみ)とのもどかしい恋の行方」で読者を翻弄させるのは、“恋愛小説の女王”ならではのテクニック。最後の最後にああいう展開になるとは・・・本当に上手い!
敢えて残念な点を言えば、超難敵という感じで描かれていたレガリスなのに、後半では「呆気無く倒されてしまったなあ。」という感じがする事。「もう一山も二山も、盛り上げ場所が在っても良かったかなあ。」という思いは在る。
総合評価は、星3.5個。
“飛ぶ鳥を落とす勢いの作家”と言えば、男性では百田尚樹氏、女性では有川浩さんといった感じですよね。共に其の作品を読んだのは、つい最近の事なのですが、今ではすっかり嵌っています。基本的には「恋愛小説」というジャンルが不得手なので、“恋愛小説の女王”と呼ばれる有川さんの作品は避けていた面が在るのですが、軍事系のテーマが多い等、男性作家的な匂いが結構在る事も在り、「単純な恋愛小説」というのとは雰囲気が違うのも、彼女の作品に魅了される所かもしれません。
「石破茂氏vs.有川浩さん」という組み合わせでの軍事対談っていうのを、是非見てみたい。“政党色”を排除した物でというのが前提ですが。