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「武藤、別におまえが頑張ったところで、事件が起きる時は起きるし、起きないなら起きない。そうだろ?いつもの仕事と一緒だ。俺たちの頑張りとは無関係に、少年は更生するし、駄目な時は駄目だ。」。/「でも。」。/うるせえなあ、と言いたげに陣内さんが顔をしかめた。/「だいたい陣内さん、頑張ってる時ってあるんですか?」と僕は言ったが電車の走行音が激しくなったせいか、聞こえていないようだった。
「チルドレン」から、12年。家裁調査官・陣内と武藤が出会う、新たな「少年達」と、罪と罰の物語。
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伊坂幸太郎氏の小説「サブマリン」は、独自の正義感を振り翳し、周りの人間を翻弄するも、憎めないキャラクターの家裁調査官・陣内を中心にして、少年犯罪に付いて記した作品。伊坂氏は2004年に「チルドレン」を刊行しているが、12年振りの続編。
伊坂作品と言えば、格言や音楽等に関する蘊蓄が随所に盛り込まれた作風で有名だが、今回の「サブマリン」でも其れ等は健在。音楽には余り関心が無い自分だけれど、チャールズ・ミンガス氏の逸話等、興味深い内容だった。
「少年犯罪」と言えば、どうしても「“晒し者になった被害者”と“あらゆる面で守られている加害者の少年”という対立軸。」で捉えてしまい勝ち。実際問題、凶悪犯罪を犯し乍ら、無反省としか思えない言動をするも、あらゆる面で少年法にて守られている様な加害少年達の報道を見聞すると、自分も不快に思う事が多い。
「サブマリン」に登場する加害少年達は、“許し難い人間”と一般的には受け取られているが、家裁調査官として彼等に触れて行く中で、其の本当の素顔が見えて来る。とは言え、加害少年達に肩入れし過ぎる事無く、「どういう理由で在れ、人を殺めてしまったら、其れ相応の“加害責任”や“苦しみ”を背負う事になる。」というのもきちんと描写されている。
本気なのか冗談なのか良く判らない言動が多い陣内だけに、そういった言動の裏に隠された真実、そして隠密裏に行っていた陣内の行動が明らかになった時、ぐっと心に来る物が在る。
総合評価は、星3.5個。