今年9月に亡くなった漫談家・テント氏が、ネタ中で良く口にしていた言葉に「判らん人、放っときますよ。一々説明しませんよ。義務教育や無いんやからね。」というのが在る。古いネタを扱う事が多い当ブログだが、今日の記事は特に若い人達にとって訳の判らない内容だろう。申し訳無いけれど、テント氏の言葉に沿わせて貰う。
自分が大の手塚治虫ファンで在る事を「手塚治虫作品ベスト10」等、過去に何度か記事にして来た。もうファン歴は、ウン十年になる。ファン・クラブが主催するファン大会に初参加したのは、今から37年前の1979年で、場所は九段会館だった。
手塚関連の作品は700冊近く所有しているけれど、彼のサイシ色紙は1枚も持っていない。そんな変わった手塚ファンの自分が、唯一と言って良い程に誇れるのは、手塚氏と2人だけで連れションをした経験が在るという事。其の場所が、37年前にファン大会が行われた九段会館のトイレだった。
以降、手塚治虫ファン大会には何度も参加させて貰っており、過去に「権利は○○○に及ぶ」及び「高齢化の波」という記事で、其の内容に触れている。そして昨日、「手塚治虫ファン大会2016」に参加して来た。
会場は、千代田区の「ワテラス」。近くにニコライ堂が在る複合施設で、此処数年はファン大会の会場として使われて来ている。最初に訪れた時は、何処に在るのかさっぱり判らなかった。下車した駅から直ぐ傍だったにも拘らず、延々と捜し回った物だが、流石にもう慣れた。
ファン大会と言えば、主役の手塚治虫氏は別にして、忘れられない人物が何人か居る。大きな身体を揺すらせ乍ら、手塚作品を熱く語っていた姿が印象的な初期の頃で言えば片山雅博氏。5年前に56歳の若さで亡くなられた彼が、初期のファン大会を代表する1人とすれば、中期以降のファン大会を代表する1人は森晴路氏だろう。手塚プロダクションの資料室長を長年務められた彼は、“手塚作品に関する生き字引”と言って良い存在。熱いタイプの片山氏とは対照的に、森氏は大人しい感じの人だったが、手塚作品に関して語る時の彼は、ぼそぼそと話す中にも熱さが感じられ、「本当に手塚作品が大好きなんだなあ。」と何度思わされた事か。そんな彼も今年4月、63歳の若さで急死。彼が手塚作品に関する蘊蓄を傾けるコーナーは、ファン大会の目玉の1つだっただけに、彼の“永遠の不在”はとても寂しい。
3つ組まれたトーク・イヴェントの中で、印象に残った事が幾つか。
「アニメ「鉄腕アトム」のOP曲【動画】を作曲された高井達雄氏。」と「漫画編集者で在り、アニメのソノシートを数多く担当された橋本一郎氏。」のトーク・イヴェントで面白かったのは、「鉄腕アトム」のOP曲が生まれた経緯に付いて。
日本初の“本格的なTVアニメ”として1963年に放送開始となった「鉄腕アトム」だが、(放送開始の)1年位前から高井氏は、手塚氏から「OP曲を作って欲しい。」と頼まれていたものの、多忙さを理由に断り続けていたのだとか。然し、或る日の夜、手塚氏から突然電話が掛かって来て、「今直ぐ、自宅に来て欲しい。」と。慌てて家を出て、手塚氏の自宅に着いたのは21時頃。「彼から何人かにOP曲の作曲を頼んだが、どうもぴんと来ない。何とか作って欲しい。」と手塚氏から懇願された高井氏は、結局引き受ける事に。「で、先生。何時迄に、何曲作れば良いのですか?」という高井氏の問い掛けに、「3曲作って、明日の朝10時に持って来て欲しい。」と答えた手塚氏。
短い曲とはいえ、約12時間で3曲作るというのは大変な事。で、直ぐ手塚家を辞去した高井氏は、自宅に戻る電車の中で1曲を作り上げたそうだ。時間にして僅か15分程で作り上げたのが、結果として「鉄腕アトム」のOP曲となる。
翌日の朝10時、フジテレビ等の御偉いさんが顔を並べる会議室に、夜通しで作った3曲を持ち込んだ高井氏。手塚氏以外は、2曲に票が分かれた。車内にて僅か15分程で作り上げた曲を推すのは、手塚氏1人だけ。「当時の“子供の歌”とされる曲調とは、全く異なっているから。」というのが、手塚氏以外が反対する理由だったのだけれど、「どうしても此の曲が良い。」と主張し続ける手塚氏に負け、選ばれたのがOP曲となった曲。実は高井氏自身も、車内で作り上げた時点で、「此れで決まりだろう。」という自信が在ったのだとか。国民の誰もが知っているで在ろう名曲を、僅か15分程で作り上げたのも凄いが、自分以外は皆反対する中、「良い。」と思う曲を結果として選ばせた手塚氏も凄い。両者の天才性を感じさせる逸話だ。
橋本氏のトーク・イヴェントに急遽登場されたのは、声優の清水マリさん。今年80歳になられた彼女は、アトム等数多くの人気作品の声を担当して来た大ヴェテラン。で、話の中で明らかになったのは、意外な曲で声を披露していたという事実。1966年に放送された(手塚治虫氏原作の)「マグマ大使」【動画】は夢中になって見ていた特撮番組の1つだけれど、OP曲の台詞部分「SOS SOS カシーン カシーン カシーン」が清水さんの声なのだとか。
歌の吹き込み時、此の部分は「マグマ大使」で村上マモル役だった(子役時代の)江木俊夫氏が担当する事になっていたが、何度か試した結果、橋本氏としてはどうにも納得行かなかった。其処で、当日、別のスタジオで清水さんが仕事をしているのを知った彼は、彼女を引っ張って来て、台詞部分を吹き込ませたのだと言う。
面白いのは、清水さん自身、其の時の出来事をすっかり忘れていたという事。昔から「『マグマ大使』のOP曲で、台詞部分を担当していたのは誰?」という声が在り、ディープなアニメ・ファンの間では「清水真理さんではないか?」と囁かれていたそうだ。彼女自身は全く記憶が無いので、「其れは違う。」と思っていたのだが、橋本氏から経緯を聞き、そして実際に曲を聞いた所、「あら、私の声だわ。」と納得。
又、「マグマ大使」でアースの役を演じていた清水元氏が、清水さんの実父というのを、今回のトーク・イヴェントで初めて知った。自分同様、知らなかった人が多かった様で、事実が明らかになった際、場内が「えーっ。」と響いていた。ヤクザの親分等、清水氏は悪役を演じる事が多かったそうだが、晩年にアースを演じた事がとても嬉しかった様で、「俺が、“神様”を演じるなんて。」と良く家族に話していたとか。
「嘗て『手塚治虫ファンクラブ』の初代会長を務めていた小説家・二階堂黎人氏。」と「自分の世代で言えば、荒唐無稽なギャグ漫画『ホモホモ7』のイメージが強い漫画家・みなもと太郎氏。」のトーク・イヴェントも、非常に面白かった。漫画界の興味深い裏話の中で、一番印象に残ったのはさいとう・たかを氏に関する話。
生前の手塚氏は良く、「僕は、女性が上手く描けないんです。」と話していた。丸まっこい線が特徴の手塚氏は、ピノコやサファイア等、可愛らしい女の子は描けても、永井豪氏の様にセクシーな女性キャラクターを描くのは不得手。長年の手塚ファンとしても、非常に納得出来る。
で、みなもと氏曰く、「さいとう先生は、子供を描くのが不得手だった。」と。「代表作『ゴルゴ13』の様に渋い大人を描くのは実に上手いけれど、子供は上手く描けない。原作が特撮番組となった『バロム・1』【動画】も、特撮番組に登場する主役の子供達は可愛いけれど、原作の場合は、子供の身体におっさんの顔が乗っかっている感じだったし。」とも。
「本当かな?」と思って調べてみた所、「確かに・・・。」
【TV版『バロム・1』に登場する主役の子供達】
【原作『バロム・1』に登場する主役の子供達】
1986年、吹田市文化会館メイシアターで行われた、第25回日本SF大会でのことでした。
森晴路さんとは、1975年名古屋での日本SFフェスティバルでお会いしました。私と森さんの共通の知人がおりまして、彼に紹介され、あいさつをしました。
いずれにしても大昔のことです。
雫石様も、手塚氏と連れションされた経験が在るのですね。そして、森氏とも面識が在るという事で、共通点の多さが嬉しいです。
「生きとし生ける物は、等しく死を迎える。」というのは自然の摂理だけれど、手塚氏に続き森氏が亡くなられたというのは、自分が生きて来た時代がどんどん“歴史の世界”に入って行く様で、一抹の寂しさを覚えます。
が、宮崎駿氏とかが批判してるの目にするとむかつくんです。
正直、やっぱり好きなのです。告悔いたしますと。雫石さんごめんなさいm(__)m
それで「素直に好きなの認めた」手塚さんですが、一つだけ?なのです。
私は現役でBJ、三つ目、七色インコやタクシードライバーを連載で読んでました。
しかし脳裏に来るのは前世代の「どろろ」であり、それ以上に「シュマリ」(これの影響でわざわざ北海道の師団に入隊した)、「MW」、「きりひと讃歌」などの成人劇画なんですね、影響されてるのは。
そのせいか「鉄腕アトムの最期」とか、手塚翁の一番にニヒルでダークな時の作風が大好きなのです。マダラ痴ほう老人の養護施設で起きた殺人事件を、ボケかけた老人達が暴く話とか。
「よいこのマンガ」ばかり評価されるのが悔しいです。「ザ・クレーター」の路線の延長として、ダークなニヒルな手塚作品が好きなのでさが、あんまし評価されませんね。残念です。
念力で動く義手を使うヒーローがマフィアに復讐する話で。超能力ヒーローが復讐鬼で正義とか関係ない。これとバイオレンスジャック(永井 豪)ですかね、小学生で衝撃だったのは。
手塚翁も辛かったんだろうなと思います。
手塚作品の中には、救いが無い程に暗い物も結構在りますね。彼自身「ハッピーエンドよりもアンハッピーエンドの作品の方が、読者の心に強く残る。」という発言をしており、そういう計算から好んで描いていただろうし、何よりも虫プロ倒産前後は、そういう作品が目立つのは、矢張り彼の心の中に澱んだ思いが強かったからでしょう。「アラバスター」(http://d.hatena.ne.jp/magasaino/20140510/p1)や「MW」(https://ja.wikipedia.org/wiki/MW_(%E6%BC%AB%E7%94%BB))なんて、本当に救いが無い作品だし。
「シュマリ」や「きりひと賛歌」は、自分も大好きな作品です。「必ずしも実在人物が主人公で無くても良い。」という大河ドラマですから、「シュマリ」を取り上げても良いと思うんですけどね。