「去就 隠蔽捜査６」

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

大森署管内で女性の連れ去り事件、更に殺人が勃発。ストーカーによる犯行が濃厚になる中、捜査の過程で署長・竜崎伸也（りゅうざき　しんや）は新任の上役と対立する。家庭でも娘・美紀（みき）にストーカー騒動が発生。予想不能の事態が公私に続発して・・・。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

 

今野敏氏は多くの人気シリーズを著しているが、「隠蔽捜査シリーズ」もそんな１つ。今回読了した「去就　隠蔽捜査６」は、同シリーズの第８弾に当たる。

 

警察小説を十八番とする今野氏だが、彼が主人公に据える人物には共通点が多い。「エリートで在る。」、「正義感が非常に強い。」、「高い捜査能力を有している。」、「部下から慕われている。」等の一方、「自分に対して自信が無い面が在り、“上”や“下”が自分の事をどう思っているか、常に気にしてしまう所が在る。」という、エリートらしく無い人間臭さが挙げられる。「隠蔽捜査シリーズ」の主人公・竜崎伸也も、此れ等の共通点を有している。

 

エリート中のエリートだったが、息子の不祥事によって警察署長へと“左遷”された竜崎。普通のエリートならば、プライドの高さから警察を辞める所だが、彼は署長として黙々と任務に励む。周りはそんな彼を“変人”と見做すけれど、「私利私欲とは無縁で、原理原則に基づき、国家公務員として在るべき姿を忠実に全うしているだけ。」という意識しか無い竜崎としては、周りが何故自分を変人と見做すのか、冗談抜きで理解出来ないのが面白い。そして、最初は彼を変人と見做し、距離を置いていた者達が、彼に触れ続ける事で其の人間性に魅了され、軈て“シンパ”に変わって行くというのも、読者が此のシリーズに惹かれる要因の１つだろう。

 

「登場人物達が皆、絶妙にキャラ立ちしている。」というのも、「隠蔽捜査シリーズ」の魅力の１つ。上司で在る竜崎に対して横柄な言動を取り続けるも、実際には竜崎を高く評価し、私淑している巡査部長・戸高善信（とだか　よしのぶ）なんぞは、其の最たる例。前作「自覚　隠蔽捜査５．５」で初登場し、今回、竜崎と対立する弓削篤郎（ゆげ　あつろう）第２方面本部長も、“敵キャラ”として良い味を出している。

 

初めは単純なストーカー事件と思われていた物が、次第に別の様相を呈して来る今回の作品。「思い込みが、結果としてミスリードを生じさせる。」という典型で、警察としては最も留意しなければならない所。

 

総合評価は、星３．５個とする。