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大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介(たいら ゆうすけ)は、医局の最高権力者・赤石源一郎(あかいし げんいちろう)教授に、3人の研修医の指導を指示される。彼等を入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば・・・。
更に、赤石が論文データを捏造したと告発する怪文書が出回り、祐介は“犯人捜し”を命じられる。個性的な研修医達の指導をし、告発の真相を探る中、怪文書が巻き起こした騒動は、軈て予想もしなかった事態へと発展して行く。
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現役の医師でも在る作家・知念実希人氏。彼の作品に関しては「崩れる脳を抱きしめて」(総合評価:星3.5個)と「祈りのカルテ」(総合評価:星4つ)を読んでおり、今回の「ひとつむぎの手」は3作品目となる。
海堂尊氏や夏川草介氏の作品同様、現役の医師が書いた作品という事で、医療現場の描写は実にリアルで、非常に興味深い。
医療現場を描いた作品としては、山崎豊子さんの「白い巨塔」や夏川草介氏の「神様のカルテ・シリーズ」が大好きなのだが、「『白い巨塔』での『医局内に於けるどろどろとした権力闘争。』と『神様のカルテ・シリーズ』での『患者と必死で向き合う中、人としても医師としても成長して行く男。』というのが合わさった作品。」というのが、「ひとつむぎの手」という感じがする。
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「医者は患者に対して親身になるべきだ。けれどその一方で、患者を一歩引いた位置で眺める冷静さも持ち合わせていないといけない。感情に引っ張られすぎると、患者にとって最も適した治療を見失う可能性がある。分るね?」宇佐美はかすかに頷いた。「もし、親しい患者が亡くなっても、医者は泣くことも許されない。患者のために泣くのは、家族の権利だからだ。俺はそう教わってきたし、その通りだと思っている。」。
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主人公の平良祐介は、実に人間臭い人物。“人間臭い”というのは、「良くも悪くも、自分を偽れない。」からだ。自身の“夢”を実現すべく、「思いに沿わない行動を取るべきか?」に悩んだり、“ライヴァル”に激しい嫉妬をしたりもする。そういう姿勢が指導を任された研修生に伝わり、彼等との関係が悪くなったりして、其の事で自分を責めたりするのも、又、人間臭い。
非常に人間臭い人物の祐介だが、心の中心に在るのは“医者になる事を決めた或る経験”と、「何としても、病から人を助けたい。」という強い思い。そういう事が3人の研修医達に伝わって行き・・・後は実際に作品を読んで貰いたい。
“形としての負け”が、必ずしも“本人にとっての負け”とは限らない。「祐介の其の後が知りたい。」と、続編を強く希望する。
総合評価は星5つ。