*********************************
日本と欧米の対立が激化の一途を辿っていた、第二次世界大戦前の昭和8年。大日本帝国海軍の上層部は超大型戦艦「大和」の建造計画に大きな期待を寄せていた。其処に待ったを掛けたのは、海軍少将・山本五十六(舘ひろし氏)。山本は「此れからの戦いに必要なのは、航空母艦だ。」と進言するが、「世界に誇れる壮大さこそ、必要だ。」と考える上層部は、戦艦「大和」の建造を支持。危機を感じた山本は、元東京帝国大学の生徒にして、天才数学者の櫂直(菅田将暉氏)を海軍に招き入れる。櫂の数学的能力で、「戦艦大和」建設に掛かる莫大な費用を試算し、其の裏に隠された不正を暴く事で、計画を打ち崩そうと考えたのだ。
「軍艦の増強に際限無く金が注がれ、軈て欧米との全面戦争へと発展してしまう。そんな事は、在ってはならない!」と、櫂は日本の未来を守る為、海軍入隊を決意。持ち前の度胸と頭脳、数学的能力を活かし、前途多難な試算を行って行く。だが、其処には、大日本帝国海軍内の大きな壁が立ちはだかって行く。
*********************************
今回観た映画「アルキメデスの大戦」の梗概だ。海軍少将・山本五十六氏や海軍大将・永野修身氏(國村隼氏)等の実在人物が登場するけれど、主人公の櫂直は実在人物では無い。此の作品は「大日本帝国海軍の造船等、当時の技術戦略がテーマ。」の、三田紀房氏の漫画「アルキメデスの大戦」を原作としている。
「日本は欧米との対立が激化する一方で、世界の中で孤立を深めていた。欧米との戦争が避けられそうも無い状況も、日本国民の間には戦争に対して前向きな雰囲気が在った。と言うのも、日清戦争及び日露戦争、そして第一次世界大戦と、大きな戦争で日本が勝利し続けて来た事で、『日本が負ける訳は無い。』という“無根拠な自信”が、国民の間に涵養されていたから。大日本帝国陸軍の暴走や不都合な情報の隠蔽、マスメディアによる戦意高揚報道等により、正確な情報が与えられなかったとはいえ、『自身の頭で、情報をきちんと分析する。』という事が出来なくなっていた国民が多かったという面も在る。」というのが、 昭和8年の日本の状況だろう。「『自身の頭で、情報をきちんと分析する。』という事が出来なくなっていた国民が多かった。」というのは、“今の日本の状況”と似た部分を感じてしまう。
そんな戦争に前向きな国民が少なく無い中、「国力の差を考えれば、アメリカを相手に戦って、日本が勝てる訳が無い。壮大な巨大戦艦『大和』が建造されてしまうと、熱に浮かされた様に戦争に賛意を示す日本国民が増え、無謀な戦争に突入してしまうだろう。其れだけは、絶対に避けなければいけない。」と考える山本五十六氏達が、「大和建造に掛かるとされる費用の矛盾を暴く事で、建造にストップを掛ける。」べく、天才数学者・櫂直を海軍に招き入れるというストーリー。
何としても大和を建造したい海軍少将・嶋田繁太郎氏(橋爪功氏)や造船中将・平山忠道(田中泯氏)等が、「実際に必要な建造費用を半分にする事で、建造計画を進ませる。」という不正を働き、其れを暴こうとする櫂達に様々な妨害工作を行う。
「大和建造の費用が、本当に正しいのか?」を分析するには、詳細な図面等の情報が必要だが、櫂達にそういう物は一切与えられず、又、分析には約2週間という余りに短い時間しか無い。そんな絶望的な状況で、櫂が見せる“超人的な数学的能力”が見所。自分も、こんな能力が欲しい。
平山忠道が櫂直に対し、口にした言葉が印象的。正確さには欠けるが、次の様な言葉だ。
*********************************
「現在の状況が続けば、日本の国民はアメリカと戦争しない事を許さないだろう。でも、国力の差を考えれば、アメリカに勝てる訳が無い。(日露戦争で勝利した事も在り)日本人は、“負け方を知らない種族”だ。だから、一旦戦争に突入したら、日本人は滅亡する迄戦いを止めない。『絶対に沈まない。』と国民が信じる巨大戦艦を建造し、そして其れが沈めば、日本人は大いに絶望し、負けを受け容れるだろう。其の為に、どうしても大和を建造しなければいけないのだ。」。
*********************************
「自分の国を勝たせる為。」という思いも在ろうが、「自分の持てる能力を最大限に発揮して、強力な武器を作ってみたい。」という思いから、原子爆弾の開発に励んだ科学者の存在。彼等の中には、「実際に原子爆弾が使用され、途轍も無い死者数が出た事を後に知り、強い罪悪感に苛まされた者も居た。」と言う。余りにも優れた能力を持つ者が、陥ってしまう面。」とも言え様が、櫂が決断した(と思われる)行為には、そんな面も影響しているのだろう。
総合評価は、星4つとする。