同じ車両に乗る人がどんな人か知らないように、
おそらく車窓に映る影が何者であるかわからないだろう。
右端からこぼれた都会の明かりが次々に左へと消えてゆく。
目を凝らせば、父も母も、祖父も祖母も、兄弟も姉妹も、従兄弟も親戚も、友人も知人も、二度と会いたくない人ももう一度会いたい人も、みんないた。
光は音かもしれない
音は文字かもしれない
目の前を横切る羅列は
線となって軌道を描き
一筋の稲妻のような
かけ上がる旋律のような
噛み締める物語のような
ありふれた人の一生のような
そんな気がした
過ぎ去った流星を、
消えた前の楽章を、
破られた前の貢を、
追いかけることはできないけれども
吹き込むすきま風から
よく知る匂いが鼻をくすぐった。
そうやって、度々再会した
そのうち、
どこかで別れた自分とも出会った
気付かれないように
息をひそめた
目頭が熱くなった。
【おわり】