児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

ループ、再生

2021-01-20 | 物語 (電車で読める程度)
ないものを数えて

後ずさるよりも


あるものを思い出して

抱きしめるほうがいいね



春風のアルペジオ

くるくるステップするベースライン


えらい人の言葉はぴんとこない

だから、大してえらくない言葉に
耳をすました


両耳から流れ込む思い出に
心をひたした


いまじゃないあの日を歩く
深く息をすった

肺にたまったグロテスクなものを
都会の淀みにとかした
 

これまで、大事にしてきたものは
いまでも、大事にできているだろうか


両手はもうかじかんでうごかなかった
マッチのない僕はどこに火を灯せばいいんだろう


ささやかな魔法使いでいたい
半径0.5mの平和を守れるような
そんな魔法が褪せないよう
握りしめていたい



幼い願いだ




けれども、それでいいとおもった




【おわり】


床に伏す

2021-01-16 | 物語 (電車で読める程度)
妻を見上げた

ここから空はうまくみえない

ふふっと、笑いかけて

買い物へと出かけていく背中はすぐに消えた。


わずか数ミリでも間違えれば、首に激痛が走った。動くことも話すこともやっとだった。積極的に何かをしたいという興味や意欲はたちまち恐怖に萎縮していった。

情けない思いがした

触れていたいという気持ちよりも体の痛みに屈したようだった


世界が途端に狭くなった


ベッドのうえは私がこれまで想像していた以上に狭く不自由なものだった


何もできず、あれこれと世話を焼く妻に

せめてもと、なんとか笑顔で感謝を述べるしかなかった


死の淵へと漕ぎだしたとき

いや、生まれたときから人は死に向かっているのだろうが。


穏やかな最期の象徴ともいえるベッドで見まもられる格好さえも

惨めで空しい時間の方が長いのではないかとおもった


尿と消毒臭い病室で、激しくえずく同室の者の隣で、私を見上げていた老人は、
最後になんと言っていただろうか

その後、いつ亡くなったんだろうか


彼の特技も思い出があったであろう場所も、今はどうなってしまったのだろう





私は、大切な人にどんな最期を向かえてほしいだろう。


私は、最期をどんなふうに迎えたいだろう。




答えは未だ見つかっていない




【おわり】

顔のない戦争

2021-01-14 | 物語 (電車で読める程度)
頁をめくり、数字ばかりのランドマークを歩いた。

殺戮者の顔出し看板に顎を当ててみた。

ごく普通の人だったんだろう

ごく普通の人が

至極当たり前にしんで

よくころしたんだろう

そうするしかほかない檻に閉じ込められて

愛のために優しい人が愛を知る人をころしたんだろう


よかった、

今はあまり頭が吹き飛ぶこともないし、
尊厳を踏みにじられた奴隷になることもない

愛する人のためにという檻のなかで
この世で一番大切な人が
優しい人をころさなくてもいい


逃げたしたって

失敗したって

文句をいったって

処刑されることもない


よかった




命を軽んじられる檻に閉じ込められなくてよかった。



けれども、いつのまにか大きなその檻が

音も立てずに狭まっていたとすればどうすればいいんだろう。

おそろしい


きっと戦争は日常の顔をしてやってくる

きらきらとした戦争のゲートをくぐった。

戦争ランドで戦争ライドに乗って戦争にゃんと一緒に記念写真を撮って、帰りに戦争土産に戦争饅頭を買った。

楽しかった

おもしろかった

ちょうどいいおもいでになった

そのうち、人をころすことは仕方のないことだとちゃんとおもえるようになった




顎がぴたりとはまった





【おわり】





再会

2021-01-06 | 物語 (電車で読める程度)
同じ車両に乗る人がどんな人か知らないように、

おそらく車窓に映る影が何者であるかわからないだろう。

右端からこぼれた都会の明かりが次々に左へと消えてゆく。


目を凝らせば、父も母も、祖父も祖母も、兄弟も姉妹も、従兄弟も親戚も、友人も知人も、二度と会いたくない人ももう一度会いたい人も、みんないた。

光は音かもしれない

音は文字かもしれない

目の前を横切る羅列は

線となって軌道を描き

一筋の稲妻のような

かけ上がる旋律のような

噛み締める物語のような

ありふれた人の一生のような

そんな気がした


過ぎ去った流星を、

消えた前の楽章を、

破られた前の貢を、


追いかけることはできないけれども



吹き込むすきま風から
よく知る匂いが鼻をくすぐった。



そうやって、度々再会した




そのうち、
どこかで別れた自分とも出会った





気付かれないように
息をひそめた



目頭が熱くなった。




【おわり】