面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ソーシャル・ネットワーク」

2011年01月14日 | 映画
コンピュータ・プログラミングの天才であり腕利きのハッカーである、ハーバード大学2年生のマーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)。
コンピュータの扱いは誰よりも得意だが、コミュニケーションの取り方は誰よりも不得手だ。
相手の心を察することが苦手な彼は、その日も“KY”な会話でガールフレンドのエリカ(ルーニー・マーラ)を怒らせ、とうとう別れを告げられてしまう。

寮に戻った彼は、ヤケ酒にビールをあおりながら、自分のブログに彼女の悪口を書き連ねていたが、ふと思いついてハーバード中の寮の名簿をハッキングし、女子学生達の写真を集めていく。
そして、任意の女子二人の写真を並べて比較し、ランク付けする仕組のサイト「フェイスマッシュ」を作り上げた。
「フェイスマッシュ」は瞬く間に学内で評判となり、アクセス数はたった2時間で2万を超えるほどに達する。
サーバにダメージを与えてしまい、大学の事務局から大目玉をくらったマークだが、彼の名前はハーバード中に知れ渡ることになる。

資産家の家に育ち、次期オリンピックへの出場も期待されるボート部のスターである双子のウィンクルボス兄弟は、マークの才能に目をつけた。
二人は、学内男女のインターネット上の出会いの場として「ハーバードコネクション」を企画していたが、そのプログラミング作成への協力をマークに要請する。
快諾したマークだったが、彼はそれよりも“クールなサイト”を考案すると、友人のエドゥアルド・サベリン(アンドリュー・ガーフィールド)と共に「ザ・フェイスブック」を立ち上げた。
「ハーバードコネクション」のプログラミングが一向に進まないことに苛立っていたウィンクルボス兄弟は、「ザ・フェイスブック」が立ち上がったことに愕然とする。
コネを利用して学長に対してマークの“非道”を訴えるが、学生同士のモメ事は自分達で解決しろ!と一蹴された兄弟は、父親の会社の弁護士を介して、知的財産権の侵害であるとしてサイトの停止を警告した…

「ザ・フェイスブック」はアッという間に学生に広まっていく。
その勢いはハーバードに止まらず、他大学をも巻き込んで急拡大していった。
創設時からサーバ利用の費用を出すなど投資に協力してきた友人のエドゥアルドは、広告を募って収益を上げることをマークに提案する。
サイトに広告が載ることは“クール”ではないとマークは反対するが、出資者であり最大の理解者であるエドゥアルドの意向には逆らえず、ニューヨークへのスポンサー探しの旅に同行する。
広告主候補との会合には気乗りしないマークだったが、ファイル共有ソフト「ナップスター」を作ったショーン・パーカー(ジャスティン・ティンバーレイク)との出会いは鮮烈な刺激を受けることになった。
「ナップスター」で一躍時代の寵児となったショーンは、「ザ・フェイスブック」が“クール”であることを賞賛すると同時に、目標にすべき評価額は10億ドルだと断言する。
そしてそこまで成長するためにカリフォルニアに来ることを持ちかけ、名前もよりシンプルに「フェイスプック」とすべきだとアドバイスを送るのだった。

いかにも軽薄そうで大言壮語ばかり言い並べるように見えるショーンに対してエドゥアルドは不信を抱くが、マークは優れた創造力を持つ者同士として強いシンパシーを感じていた。
エドゥアルドがスポンサー探しで出かけている間に、マークはショーンと手を組む。
スタッフを増やし、サーバーを増設し、ショーンは次々に投資家とのミーティングを設定して「フェイスブック」の拡大を推し進めていく。
ところが、エドゥアルドは自分のうかがい知らない間に「フェイスブック」が変わっていく様子に激怒し、いきなり「フェイスブック」の口座を凍結する。
このことに端を発してマークとの間に大きな亀裂を生じたエドゥアルドは、巨大化した「フェイスブック」に居場所を失ってしまう。
マークの親友であり、最大の協力者を自負してきたエドゥアルドは、失意に打ちひしがれつつ創業者としての権利を求めてマークを告訴するのだった…


日本を含む世界の登録者数が5億人を突破したと発表した“Facebook”。
数年以内には登録者数が10億人に到達する可能性があるとも言われ、更なる急成長を遂げている巨大帝国の裏側と真実に迫る話題作。

人とのコミュニケーションが下手で友人を作ることが苦手なマークは、「フェイスブック」という“簡単に友人を作ることができるツール”を生み出す。
世界中に“友人”を作り、その目的は達せられ、更には莫大な資産と名声を得たたマークだが、“真の友人”を失うことになる。
そんなとき我々凡人は、深い悲しみと大きな喪失感を抱くものだが、果たしてマークはどうだろうか。
エドゥアルドはおそらくマークを“親友”と思っていただろうが、マークにとっては“友人のひとり”くらいにしか認識していなかったのではないだろうか。
自分には分かりきっていることを相手が理解しなかったり、自分の能力を相手が正当に評価しようとしないとき、マークは不機嫌になっていく。
相手が喜ぶようなことを表現することができない彼は、往々にして会話の相手と敵対するかのような関係を築いてしまう。
意識するわけではなく“自分の優秀さ”を口にしてしまうマークの話しぶりに、会話の相手は嫌気が差してきてイライラし始める。
会話は段々と棘のあるものになっていき、ついにはマークとの会話を打ち切って席を立つ。
マークにしてみれば、至極当たり前のこと、あるいは事実・真実を言っただけのことなのに、相手が怒って去ってしまうことが理解できない。
自分が認められないという不満ばかりが募り、それが“怒りのエネルギー”へと変わるとき、誰にも真似のできないような素晴らしい創造性が発揮される。
そもそも「フェイスブック」も、ガールフレンドが自分を理解せずに去っていったことへの怒りに端を発して、生まれたものなのだ。

人より大きく抜きん出た高い創造力を持つマークは、その優秀さゆえにコミュニケーションが成り立ちにくく、人々から孤立する。
それは「ナップスター」を作ったショーンも同様で、マークはエドゥアルドよりもショーンに“同志”としての共感を感じていたのではないだろうか。
しかし、「フェイスブック」が巨大化していくにつれて、ショーンとマークは全く異なった様子を見せる。
ショーンは、莫大な財産を得て享楽に耽るが、マークはそんなことには興味を示さない。
そんなことより、「フェイスブック」を更に“クール”なものへと進化させ続けることが、彼にとっては最大の関心事なのである。
そのことが結局は、彼をしてフォーブス誌が発表する「世界で最も若い10人の億万長者」のトップたらしめたのではないだろうか。

ショーンをも凌ぐ「孤高の天才」マークだが、“友達を簡単に作るツール”「フェイスブック」を使って彼が手に入れようとしたものは、実は富でも名声でも無かったのかもしれない。
コミュニケーションが苦手だからこそ、得意なパソコンを使って得ようとする、クールな彼には似つかわしくない人間味を見せる切ないシーンが印象的。
映像の奇才がITの鬼才を見事に描ききった、デヴィッド・フィンチャーなればこその傑作。


ソーシャル・ネットワーク
2010年/アメリカ  監督 デヴィッド・フィンチャー
出演 ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、アーミー・ハマー、マックス・ミンゲラ