所得税確定申告のシーズンまっただ中。最近は2人に1人がパソコンで申告書を作り、収支を記録する会計ソフトのハイテク化も進む。一方で、「何が経費にできるのか」という悩みも多い。

 「自動で税額を計算してくれるのは便利ですね」。病院事務として働く久保直美さん(55)は24日、堺税務署(堺市)で言った。整骨院を営む次男の代理で確定申告に来たという。

 久保さんが利用したのは昨年に続いて2度目の電子申告・納税システム「e―Tax(イータックス)」。パソコンに収入と経費を入力すると、納税額を計算してくれる。画面上でできあがった申告書はそのまま電子データで送るため、申告にかかる時間はわずか10~15分だ。

 近畿で最多の約13万人が申告する堺税務署にはパソコン40台が並ぶ。整骨院にパソコンはあるが、久保さんは「慣れていないから」と今年も税務署員の手ほどきを受けた。「ゆくゆくは自分だけで申告したい」

 パソコンで申告書を作れるシステムは2003年、e―Taxは04年から導入された。パソコンで作ると税額の計算ミスや記入漏れも分かり、税務署員は「手書きの申告書よりチェック時間が少ない」と言う。

 一方で、13年分の所得税の申告のうち、パソコンで申告書を作った人は全体の54・3%(1163万8千人)。その申告書を電子データで送信(e―Tax)した人は833万8千人だった。送信には住民基本台帳カードとICカードリーダーが必要で、手書きで申告書を作成する人は依然として多い。国税庁はパソコンによる申告書作成の周知に力を入れるとともに、より簡単に申告できるように2年後には新たな認証方式を導入する方針だ。

 民間の会計ソフトも進化している。近年はネット上にデータを蓄積する「クラウド型」の有料サービスが登場。代表格が13年3月にリリースされた「freee」だ。運営するfreee社(東京)によると、月980円の「個人事業主プラン」などがあり、約20万の事業所が使っている。

 特徴はインターネット上でのお金のやりとりを自動記録する点。ネットショッピングやネット銀行での入出金、クレジットカードの買い物といったデータと同期・蓄積し、申告書を作れる。佐々木大輔社長は「経理にかける時間が短くなれば本業に専念できます」。昨年1月に提供されたソフト「MFクラウド会計・確定申告」は複式簿記に対応し、1年で12万人のユーザーを獲得したという。

■ディズニー入場料やCD購入も「経費」

 なにを「経費」として計上できるのか――。確定申告をする際の悩みの一つとして挙げる人も多いが、どんなものが経費になるかを教えてくれるシステムは今のところできていない。

 税制が頻繁に変わる中、手助けになるのは「節税」をテーマにした解説本だ。毎年、さまざまな新刊が書店に並ぶ。

 2年前に解説本を出した広島市の税理士・福島宏和さんは経費探しを「頭の体操」という。顧客には「生活のために使っているものの中に、仕事でも使っているものはないですか」と尋ねる。特に知られていないと感じるのが、自宅の一部を仕事場に使う個人事業者の場合、自宅の家賃や光熱水費の一部を経費にできることだという。

 さらに近年は職種の幅が広がったこともあり、意外な出費が経費になるケースも。福島さんのある顧客はディズニーランドの入場料を経費として計上した。顧客の仕事は「アフィリエイター」。遊びに行った体験を記事として自分のブログなどに載せ、そこにリンクさせた企業広告のサイトに閲覧者を誘導。企業から報酬を得ている。ディズニーの入場料は「収入を生むために必要なお金」と考えたという。

 講演業で収入を得た別の顧客は映画のチケット代や音楽CDの購入費を経費にした。「なにが流行しているのかを知り、講演のネタにするため」というのが計上の理由だった。福島さんは「仕事との関連性をしっかり主張できればいいんです」と話す。

 経費や確定申告に関する疑問を受け付けるため、大阪国税局は3月16日までコールセンターを設ける。対応するのは同局職員や近畿税理士会の税理士。各地の税務署に電話をかけ、自動音声の案内に沿って進めばつながる。(