既習ですが、このあと(6)の記事を投稿するので再掲しました.
悪童物語(トーマ)
Lausbubengeschichten (Ludwig Thoma)
悪童物語(1)
———————————【1】———————————————————
Der vornehme Knabe
Zum Scheckbauern ist im Sommer eine Familie ge-
kommen. Die war sehr vornehm, und sie ist aus Preu-
ßen gewesen.
Wie ihr Gepäck gekommen ist, war ich auf der Bahn*,
und der Stationsdiener hat gesagt, es ist lauter Juchtenleder,
die müssen viel Gerstl haben.
———————————(訳)————————————————————
良家の少年
百姓のシェックさんのところに、この夏、ある一家がやって
来た.一家は上品な人たちで、プロイセンから来たのでした.
彼らの荷物が到着したとき、ぼくは駅に行っていました.
駅員が言うには、荷物はみんなロシア革ばかりで、この人たち
は大金持ちに違いないとのことだった.
———————————《語彙》———————————————————
Zum Scheckbauern:zum Bauern Scheck.
(百姓のシェック家のところへ)
名詞 der Bauer は混合
変化または弱変化をする.
der Scheck:(s式) 小切手;ここでは人名で、シェック家の人々.
der Bauer:(弱n) 農民、農夫
vornehm:(形) ❶上品な、気品のある; ❷上流階級の
❸気高い
das Gepäck:(単数ノミ) 手荷物、(旅行用)荷物
wie:~したときに(=als)
der Stationsdiener:(同尾式) [古い表現] 駅員、駅夫
[今は] der Stationsbeamte(r)
lauter:(形) ❶純粋な;
❷[付加用法] まったくの、ただ…ばかり、
Juchtenleder:(男)(中) ロシア革
Gerstl:[方言] Geld
———————————《註釈語彙》———————————————————
*) auf der Bahn:auf dem Bahnhof = 駅で、駅に(いる)
㊟A格は auf den Bahnhof = 駅へ、
auf den Bahnhof gehen 駅へ行く
悪童物語(トーマ)
Lausbubengeschichten (Ludwig Thoma)
悪童物語(2)
———————————【2】———————————————————
Der vornehme Knabe
Und meine Mutter hat gesagt, es sind* feine Leute,
und du mußt sie immer grüßen, Ludwig.
Er* hat einen weißen Bart gehabt, und seine Stiefel
haben laut geknarrzt.
———————————(訳)————————————————————
そしてぼくの母はこう言った、あれはよく出来た
人たちだから、ルードヴィッヒ、お前はいつもちゃ
んと挨拶しないといけないよ.
主人は白い髭を生やしており、その長靴はきゅっ
きゅっと大きな音をたてていました.
———————————《語彙》———————————————————
*es sind:「それは~である」と紹介する場合に、性・数
に関係なく、中性形es を用いることができる.
動詞は述語名詞と一致する.
Leute = 3複 → sind (sein)
feine:(強女1格) <fein (形) 良家の、品のいい
der Bart:(変E) ひげ
*er:この代名詞が受けている名詞は見当たりません.文
の流れから推測すると、やって来た一家の主人と
いうことになる.ちなみに「主人」はドイツ語で
der Mann (変ER) 一応「主人」と訳しておきまし
た.
der Stiefel:(同尾式) 長靴
laut:(形、副) 大きな、騒がしい
geknarrzt:(過去分詞) <knarrzen = knarren
(自) ぎいぎい音を立てる、きしむ
——————————————————————————————
悪童物語(トーマ)
Lausbubengeschichten (Ludwig Thoma)
悪童物語(3)
———————————【3】———————————————————
Sie hat immer Handschuhe angehabt, und wenn es
wo naß war auf dem Boden, hat sie huh ! geschrien
und hat ihr Kleid aufgehoben.
———————————(訳)————————————————————
奥様のほうは、いつも手袋をしていて、地面がどこか
ぬかるんでいれば、「あらまあ」と叫んで、服の裾をたく
し上げるのでした.
———————————《語彙》———————————————————
sie:前回のer と同様、初めて出てくるので sie の指すものが不明
なのですが、話の流れからは、「奥様」を言っていることにな
ります.つまり、die Frau.
——質問:いきなり、sie やer を使ってもいいのか?
——答え:いきなりsie やerが出てくる歌謡曲の歌詞はいくら
でもあります.小説だって、そういう書きおこしが
あっても全然おかしくありません.
——質問:先に名前が紹介されて、それからsie だのer だのが
来るのが自然だと思うのですが.
——答え:そうですか.では夏目漱石の『吾輩は猫である』の
主人公には名前がなかったはずですが、どうします?
——質問:どんな出だしですか?
——答え:Ich bin eine Katze. Meinen Name habe ich noch nicht.
——質問:はいはい、人称代名詞が名前に先行する例はもうわ
かりました.OK!ところで、ドイツ語では、職業
には冠詞をつかわないのでは?
——答え:ネコは職業じゃないので!
——質問:でも身分ですよね?
——答え:そんな身分の人間はいません.夏目漱石じゃないけ
ど、「Ich bin eine Katze.」のタイトルの本はたくさん
出ていますよ.
der Handschuh:(e式) 手袋; ein Paar Handschue 一組の手袋
naß:(旧正書法) <nass (形) 濡れた、湿った
der Boden:(変同尾) 土地、地面、床
aufgehoben (過去分詞) <auf/heben (他) (A格を) 持ち上げる
—————————————————————————————
悪童物語(トーマ)
Lausbubengeschichten (Ludwig Thoma)
悪童物語(4)
———————————【4】————————————————
Wie sie den ersten Tag*¹ da waren, sind sie im Dorf
herumgegangen*². Er hat die Häuser angeschaut und
ist stehen geblieben. Da*³ habe ich gehört, wie er ge-
sagt hat:„Ich möchte nur wissen, von was diese
Leute leben.“
———————————(訳)————————————————
初日、ここに来たときから、彼らは村を歩き回りました.
主人は家々を眺めて立ち止まった.その時、ぼくはこの男
が言っているのを聞いた、「この人たちは何を生活の糧と
しているのか、知りたいものだ.」
———————————《語彙》————————————————
*1) den ersten Tag:名詞4格形による副詞化;「初日に」
*2) herumgegangen:(過去分詞)
<herum/gehen (自) (あてどなく)あちこち歩き回る
im Garten herumgehen 庭をあちこち歩き回る
*3) da:その時、そこで
—————————————————————————————
悪童物語(トーマ)
Lausbubengeschichten (Ludwig Thoma)
悪童物語(5)
——————————【5】————————————————
Bei uns sind sie am Abend vorbei,*¹ wie wir gerade
gegessen haben. Meine Mutter hat gegrüßt*² und Änn-
chen*³ auch. Da ist er hergekommen*⁴ mit seiner Frau
und hat gefragt:„Was essen Sie da*⁵ ?“
———————————(訳)————————————————
夕方のこと、ぼくたちがちょうど食事をしていると、彼等
が通りかかりました.ぼくの母が挨拶、そしてアンナちゃん
も挨拶をした.そしたら男のほうが奥方を連れて近寄ってき
て聞いたのだ.「それは何を召し上がっているの?」
———————————《語彙》————————————————
*1) Bei uns sind sie am Abend vorbei:
Bei uns sind sie ...vorbeigekommen
「彼等は私たちのそばを...通りかかった」.
bei jm. vorbeikommen には「ある人のところ立ち寄る」
という意味があるが、ここでは「そばを通り過ぎる」
*2) gegrüßt:(過去分詞) <grüßen (4格人に) 挨拶をする
ここでは目的語がないので自動詞扱い.ただし辞書
には自動詞の項目はない.(あっても別の意味).
*3) Ännchen:Anna、もしくはAnne の縮小形.愛称として
呼ばれる.
*4) hergekommen:(過去分詞) <her/kommen (自/s) こちらへ来る、
近寄る.
*5) da:そこで、