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韓国を苦境に追い込むバイデン新政権が、日本経済には追い風になる理由

2020-12-01 11:19:36 | 日記

韓国を苦境に追い込むバイデン新政権が、日本経済には追い風になる理由

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
 
 
 
 
 
オバマ前政権で国務副長官などを務めたアントニー・ブリンケン氏を国務長官に起用 Photo:AP/AFLO
© ダイヤモンド・オンライン 提供 オバマ前政権で国務副長官などを務めたアントニー・ブリンケン氏を国務長官に起用 Photo:AP/AFLO

日本にとって

バイデン次期政権の発足はチャンス

米国のバイデン次期大統領は政権の移行に向けて、閣僚人事を発表し始めた。

バイデン新大統領の外交政策は、アジア地域の政治・経済、安全保障面で重要な変化を生み出す可能性がある。

その中で、バイデン政権で外交問題を扱う国務長官にアントニー・ブリンケン氏が起用されることは重要だ。同氏は、中国と北朝鮮に対して厳しい姿勢を持つことで知られる。

ブリンケン氏起用によって、中国と韓国を取り巻く環境の厳しさは増すだろう。

アジア太平洋地域での孤立を食い止めるために、中国の習近平国家主席はRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の署名に加えて、TPP11(環太平洋パートナーシップ協定)への参加にも意欲を示している。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の場合、対中国、北朝鮮政策が難航することへの懸念はかなり強く、わが国に急速に接近して秋波を送っている。

その一例として、文政権は日韓の議員連盟名誉会長である姜昌一(カン・チャンイル)氏を駐日大使に内定した。

いまだにトランプ米大統領が敗北を認めていないことは気がかりだが、わが国にとって、アジア太平洋地域の安定など国際協調を重視するバイデン次期政権の発足はチャンスだ。

わが国は、米国との信頼関係を高めて安全保障を固めつつ、各国と協力してより大規模な多国間の経済連携を目指すべきだ。それは、わが国が極東地域の安定を確立しつつ、経済面で中国とのつながりを保つことにつながるだろう。

アジア太平洋諸国を

自国陣営に引き込みたい中国

米中対立や新型コロナウイルスの発生によって、国際社会における中国の孤立感が深まっている。すでに、中国はオーストラリアやインドとの関係悪化に直面した。

オーストラリアの場合、輸出の34%が中国向けだ。経済の安定にとって対中関係は欠かせない。

それでもオーストラリアが中国への批判を強めたことを考えると、安全保障面での対中不安、脅威論の高まりは深刻だ。

同じことが多くのアジア新興国にも当てはまり、中国から距離をとる国が増えている。

足元のアジア新興国地域では、ラオスとカンボジアが親中姿勢を示している。しかし、両国ともに経済規模は小さい。

経済成長率を高めることが難しくなっている「成長の限界」を迎えた中国は、より多くのアジアの新興国を懐柔して関係を強化し、需要を取り込んで自国経済を安定させなければならない。

それが難しい場合、習近平国家主席の求心力は低下するだろう。その展開を避けるために、中国はRCEP署名に加えて、TPP11にも参加する姿勢を明確に示した。

 もともとのTPPは、加盟国間での競争や通商ルールの統一を重視した。

それは、関税障壁を維持することで国有・国営企業などを保護し育成する中国の価値観と矛盾する。

関税障壁の低下という代償を払ってまで中国はアジア環太平洋に接近し、懐柔を試みなければならないほど厳しい状況を迎えたといえる。

その一方で、米国ではアジア政策を軽視したトランプ大統領から、国際協調を重視し、アジア太平洋各国との連携を目指すバイデン氏に政権がバトンタッチする。

バイデン氏にとって口にすることは難しいものの、アジア太平洋地域での中国の進出を食い止めるためにTPP復帰は重要だ。

国際連携の強化による対中包囲網形成を目指すブリンケン氏の国務長官起用には、将来的なTPP復帰を視野に入れつつ対中圧力を強化したいバイデン氏の考えが込められている。また、ブリンケン氏は北朝鮮強硬派だ。経済面で中国、外交面では北朝鮮を重視してきた韓国の文大統領は一段と厳しい状況を迎えつつある。

重要な環境変化が

懸念される中国と韓国

ブリンケン氏の国務長官起用は、中国と韓国の経済にとってマイナスだ。特に、韓国経済への逆風は強まるだろう。

米国の制裁によって、中国のファーウェイは苦境に陥った。

同社は低価格帯のスマートフォンブランドである「オナー」を政府が関与するコンソーシアム(共同事業体)に売却することによって、当座の資金繰りを確保し、製造面での弱さも補完したい。

ただし、自国の製造技術が不十分な状況下、ファーウェイの今後の事業体制や、オナーブランドを取得したコンソーシアムがスマホ生産を継続できるかどうかは不透明だ。

それに加えて、世界の半導体産業を左右する力を持つ台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は、米国政府に従う方針を明確化し、中国経済全体が世界の半導体サプライチェーンから断絶されている。

バイデン次期政権下でもTSMCは米国との関係を強化するはずだ。

中国は国家資本主義体制の下で半導体の内製化を急いでいるが、時間はかかる。

懸念されるのは、ここにきて「灰色のサイ」とも呼ばれる中国の債務問題が深刻化していることだ。特に、習国家主席の出身大学である清華大学が支援してきた半導体メーカー、紫光集団の社債デフォルトは大きい。

経済全体で生産要素をIT先端分野にダイナミックに再配分することによって経済成長を維持し、ゾンビ企業の延命などを目指す共産党政権の経済運営は難しい局面を迎えている。その状況下で米国が対中圧力を強化すれば、中国経済にはさらなる下押し圧力がかかるだろう。

それは、輸出を中心に経済面での対中関係を重視した韓国にとってかなりのマイナスだ。

その上にバイデン次期政権が規制強化や人権問題などで対中圧力を強めれば、韓国経済にはかなりの下押し圧力がかかるだろう。

また、足元の韓国国内では自動車産業などで労働争議がし烈化し、若年層の雇用環境は厳しさを増している。

その中で、バイデン次期政権の求めに応じて文氏が安全保障を頼る米国との関係を優先し、経済面で中国、外交面で北朝鮮を重視する姿勢を改めれば、急速な政策方針の変更に世論は動揺するだろう。

その結果、文政権の経済政策運営は一段と難航し、所得・雇用環境の悪化に拍車がかかる展開も想定される。

日本に秋波を送り始めた

韓国・文政権

オバマ政権下で国務副長官を務めた際、ブリンケン氏はアジア太平洋地域の安定にとって日米韓の連携が不可欠と述べた。

額面通りに受け止めると、今後、韓国の文大統領が反日姿勢を続けることは難しくなる。文政権がわが国に接近しようとしているのは、その展開に備えるためだ。

しかし、元徴用工問題に関して文政権は、日韓請求権協定に基づき自国で解決しようとはしていない。その点、菅政権が韓国に対して静観姿勢をとり続けていることは重要だ。

わが国は、国際連携などの是は是、国家間合意の無視などの非は非と、“是々非々”の立場を貫き、国際世論が納得できる明確なロジックに基づいた対韓政策を続ければよい。

それよりも重要なことは、バイデン次期政権の発足は、わが国経済にとってチャンスだということだ。

主要国の中でも、わが国はトランプ政権と良好な関係を維持した。米国では超党派で対中圧力の重要性が共有され、アジア地域でも対中脅威論が高まっている。

ドイツなど欧州各国も中国と距離をとり始めた。

わが国はその状況を生かし、より大規模な多国間の経済連携の実現を目指すべきだ。

そのために政府は、率先して労働市場の規制緩和や、行政と経済のデジタル化を進め、多国間の経済連携に対応できる国内の体制を整えなければならない。

すでにわが国の財政・金融政策は限界を迎えている。

わが国が経験したように、米国やユーロ圏各国、さらにはアジア新興国でも、低金利政策にもかかわらず物価低迷の懸念が高まっている。

世界的に経済の“ジャパナイゼーション”懸念が高まる中、わが国の今後の経済政策は、世界各国が経済の安定を目指す先行事例になり得る。

世界経済の歴史を振り返ると、グローバル化の推進が経済成長を支えた。わが国はバイデン次期政権との信頼関係構築や共和党保守派との関係維持に取り組み、米国とTPPの意義を再共有すべきだ。

それを基点に、わが国が新興国の債務問題やワクチン供給網の整備などに取り組むことで、より公平かつ安定した世界経済の運営を目指すことができるだろう。そうした考えへの国際的な共感を得るために、政府は国内のコロナ感染対策を徹底しつつ、世論を一つにまとめて構造改革を粛々と、しかもスピーディーに進める必要がある。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)