2020-12-29 22:56:28 | 日記
【ススキノ哀歌】コロナ禍の“濃厚接触“と偏見に苦悩…「生きるのに必死」性風俗で働く女性たち
12/29(火) 19:05配信
北海道ニュースUHB
新型コロナウイルスの猛烈な感染第3波に見舞われている北海道。
中でも日本3大歓楽街の一つと言われる、札幌のススキノが苦境に立たされている。
「感染拡大の大きな増加要因」と行政に名指しされ、休業や時短営業を要請。
客足が遠のき、街のネオンが消えた。
飲食店ばかりではなく、300店あるとされる性風俗は苦しい経営を余儀なくされている。生きるのに必死――。
女性たちは偏見に苦悩しながら、“濃厚接触“のリスクにさらされながら働き続ける。店も性産業を支援しないとする行政にいら立っていた。
風俗ビルの6割閉店…“客と従業員感染“公表した店
同じ風俗店ビルの同業者が相次いで閉店したと説明する店長の男性(北海道札幌市、12月)
「このビルに入る他の店は、もう3分の1くらいしか残っていない」
風俗店店長の30代男性は人気のない廊下で寂しそうに語った。
ビルは9階建てで、テナントはすべて性風俗店。
17店が競うように入り口の壁を埋め尽くしていた行灯(あんどん)はいまや7つだけとなった。
11月20日、感染者が北海道全体で304人と過去最多を更新。
札幌でも191人と猛威を振るっている最中だった。
店は15年前から営業している人気店「バカラ」。
「メンズエステ」と称し男性客に性的なマッサージを提供していて、サービスする女性は約10人が在籍している。
コロナ禍でも通常営業を続けてきたが、第3波が直撃。
客と従業員の2人が感染した。
男性は11月19日、店を休業しブログに事実を公表。思いの丈をつづった。
「当店は風俗店で何の補償も受けられないですが、命を優先し公表いたしました。ススキノでは残念なことに非公表の店が後を絶ちません。
その結果『夜の街関連』とひとくくりにされ、クラスター(集団感染)も発生しやすく、ススキノで遊ぶ人が激減してしまった」
ススキノでクラスターが公表された翌日は必ず客が激減する。
ススキノ全体がひとくくりで評されているが、対策で足並みがそろわない他店に、男性はいら立っていた。
客は半減し赤字経営「1年以内に潰れてしまう」
メンズエステ「バカラ」のブログ(11月20日)
男性は札幌市保健所の対応にも怒り心頭だった。
「『営業は自由で、店名は公開しなくて結構。
消毒もお店の判断で業者の紹介はできない』と言われ、あ然とした。
そんな対応だから、陽性者が出ても公表せず営業を続ける店が続出し、クラスターが広がったと思う」
保健所の主張はこうだ。
「休業を強いたり公表したりする権限はない。私たちの対応の是非はお答えできない」。男性は腑(ふ)に落ちないまま1週間休業した。 恐れていた風評被害はなく、客から励ましの電話が寄せられ、ネットでは賛辞の声が上がった。
「客と従業員のことを考えての公表。すばらしい」
「勇気と誠意ある決断」
「休業明けに遊びに行きます」
ただ現実は厳しい。
女性経営者によると、客足は去年の半分以下で、回復の兆しは見えない。
消毒代がかさみ、赤字が続いている。
「風俗業は持続化給付金の対象外で補償が本当にない。この状態が続くと1年以内には潰れてしまう」(女性経営者) こうした不安に行政が寄り添うことはなかった。風俗業に血税を振り当てるのは厳しい――。それが結論だった。
“給付金“は対象外「血税を使うべきでは
「性風俗関連特殊営業」を営む法人は持続化給付金の対象外
北海道と札幌市は11月26日、ススキノの「接待を伴う飲食店」に休業要請を出したが、風俗店は「飲食店」ではないため、協力支援金60万円は受け取れない。
国は収入が半減した中小企業に支給する「持続化給付金(最大200万円)」や「家賃支援給付金(同600万円)」を用意したが、政治団体や宗教団体とともに、ラブホテルや風俗店など「性風俗関連特殊営業」を営む法人は対象外とした。
中小企業庁の担当者は、与党の議論を踏まえたと強調する。
「反社会勢力とのつながりが懸念されるうえ、セックス産業に国民の血税を使うべきではないと与党内の意見もある。賛否が分かれており、今すぐ判断を変える状況ではない」
行政の対応にバカラの女性経営者は納得がいかない。
「税金はきちんと払っていて、反社会勢力とのつながりもない。私たちはススキノの産業を支えてきた。除外は偏見を助長している」
性風俗従事者への偏見や賤業(せんぎょう)視は根深く、コロナ禍で標的にされ続けているという。現場で濃厚接触のリスクにさらされている女性たちも悲痛に訴える。
4畳半の個室 さらされる“濃厚接触のリスク“
メンズエステ「バカラ」で接客を担当する20代女性(北海道札幌市、12月)
「店で感染者が出たときは、ついにきたかと思った。でも慣れてしまい恐怖感はない」。
バカラで接客を担当する20代女性は店で感染者がでたときを振り返る。
女性は4畳半の個室で、平均1時間客と過ごす。客が入れ替わる際、ベッドをはじめ、部屋の隅々まで消毒するが、サービスの提供中はほとんどマスクをつけず、濃厚接触は免れない。
いつ感染してもおかしくないと自覚しているが、生活するためには働き続けるしかないと語気を強める。
「“ススキノや風俗が悪い“という雰囲気も漂っているが、気にしていられない。生きるのに必死。コロナでどうなろうとも私は出勤を続け、一生懸命接客するしかない」
性風俗の感染リスクはどの程度なのか。専門家によると、感染リスクは会食と同じ。他の業種と変わらないとする。
専門家の見解「感染リスクは風俗も会食も同じ」
ススキノで感染予防を指導する北海道医療大学の塚本容子教授(北海道札幌市、12月)
札幌市保健所によると、ススキノの性風俗店でクラスターは12月22日現在、発生していない。
ススキノで感染予防を指導する北海道医療大学の塚本容子教授(感染管理学)はことさら性風俗だけを危険視するのは誤りと指摘する。
「性風俗だけが感染リスクが高いと考えるのは間違い。マスクを外して人と会話することが危ないので、性風俗も会食も同じ」
ただ、働く女性たちが感染のリスクにさらされていることに変わりはない。
「狭い空間で接触する。女性は弱い立場になりやすく、マスクを付けたくても、客に求められ外さざるを得ない状況も多い」(塚本教授)
感染経路を追跡しにくい事情もある。利用者は感染しても、後ろめたさを感じ、利用したことを保健所に申告しないことが多い。性風俗店側も同じだ。
「バカラのように休業し、公表したことはとても勇気のある行動だが、感染の実態を把握することは難しい」。
塚本教授は対策の難しさを説く。 専門家が苦慮する理由がもう一つある。それは女性たちが感染リスクの軽減よりも収入の補填を優先していることだ。
感染リスクより収入減…女性たちの“苦悩“
風テラスでは弁護士とソーシャルワーカーがペアになり相談に応じる(風テラス提供)
東京を拠点に性風俗で働く人から生活や法律の相談に無料で応じる「風(ふう)テラス」にも、ススキノで勤める女性から相談が100件近く寄せられた。
「とにかく借金や家賃が払えず生活できない人が増えている」。
発起人の坂爪真吾さんによると、相談内容の大半は経済的な問題で、感染リスクを恐れる人はほとんどなかった。
取材した女性たちもほとんどがまず生活の困窮を訴えた。
ファッションヘルスで働く綾菜さん(仮名、22)はピンクのコートに身を包み、ファストフード店に現れた。
めかし込んでいるが、表情は疲れていた。
「風俗はがんばれば、がんばるほど稼げると思っていた。以前は1日7本(7人の客)、毎日4~5万円稼いだ。月にすると50万円だったが、今は10万円を切ることも。家賃や携帯電話代を払うのが精いっぱい」
- 風俗業界に入ったのは2年前。高額で、すぐに現金を受け取れる日払いが魅力だった。
- 最初は知らない男性の体に触れることに抵抗があったが、回数を重ねるうちに、感覚がまひした。それもお金があればこそだった。
- 「風俗で働いているっていうだけで邪見に扱われる。ネットではまるでばい菌扱い。私たちそんなに悪い存在なのかな」 ネイルが所々はげた指先でスマートフォンのSNSを凝視する。
性風俗への偏見と差別「30年前のHIVと同じ」
インターネット上にあふれる性風俗業を蔑視する言葉
「風俗街のススキノがコロナの巣窟となっている」
「風俗店はばい菌、ウイルスの吹きだまり」
「コロナは風俗嬢が各地に広めている」
インターネット上には、性風俗業を蔑視する言葉であふれている。
「30年前のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染拡大とまったく同じ状況。コロナで風俗業界が差別されている。“風俗がウイルスをまき散らしている“なんてことはない」。北海道医療大学の塚本容子教授は憤る。
ススキノの飲食店で働く人たちに抗体検査を実施する塚本容子教授(北海道札幌市、7月)
塚本教授は当時、アメリカで新興感染症だったHIV感染者の診療に当たっていた。過去の教訓を生かすべきだと強調する。
「当時、性風俗で働くだけで感染していると中傷された。差別を恐れ、検査を受けない人が多くいた。コロナも差別が減れば、感染者の自己申告だけでなく検査する人も増え、感染実態が把握できる」
ススキノを下支えしていた風俗業はまさに“厳冬“を迎えている。
早くコロナ禍が過ぎてほしい――。
従事者たちは感染リスクや差別にさらされながら、春を待ちわびている。
この記事は北海道ニュースUHBとYahoo!ニュースの連携企画です。新型コロナウイルスで苦境に立たされた歓楽街「ススキノ」の今を伝えます。
北海道ニュースUHB