007スペクターについて諸々。
ダニエル・クレイグ演じるボンド(以下ダニボン)もいよいよ4作目。こちらには前3作(1、2、3)の感想など書き連ねた経緯もあり、今回も“礼儀”として、あれこれ思ったことなどグダグダ書き残しておくことにする。
(以下、例によってネタバレとか関係なしに書くので。)
本作はタイトルそのまんま、満を持してボンドの宿敵スペクターの登場。個人的に00セクションの新陣営を完成させた前作までが「ボンド君成長記三部作」とおもっていて、いよいよ本格的なボンドアクションに突入とあたしゃ胸躍らせたわけだ。
とにもかくにも心配だったのがお馴染みのガンバレル。またもや「意外だつたろう」とドヤ顔で本編の最後に挿入されては堪らない。前成長三部作で新ボンドが完成したのだから、本作はきちっと伝統通り冒頭に入れるべきである。
いざ劇場にて、客を泥棒呼ばわりする啓発映像が終了し、MGMとコロンビア映画のロゴが映し出されると不穏な音楽が流れる……。まさかやらかしゃあしないだろうなとドキドキしていたところ、デーデッ!デー!デーデッ!デー!とお約束通りガンバレルの登場!!
これはもう、思わず劇場で「でかした!!」と独り小さくガッツポーズしたよ。あの不穏な音楽も観客をワクワクさんにさせる粋な計らいだったってことだ。
アヴァンタイトルはメキシコ死者の日が舞台。冒頭ボンドが女と街を歩き、エレベーターに乗って、部屋の窓を出てから狙撃体制に入るまでワンカットでじっくりと見せる。実に良い仕事をしてくれるじゃない。それはそうと、あのホテルの部屋のダニボン早着替えはぜひともBDのメイキングに入れて欲しいものだ。
建物がぶっ飛んで転げ落ちるダニボンの所作は何処となくロジャー・ムーアあたりを彷彿させるものがあり、いよいよ4作目で作風変えてきたかと感じる。その後のアクロバティックなヘリのアクションなんか思いっきりユアアイズオンリーぽくて往年のファンはニンマリするところよね。
んで、OPクレジット。やはり今回もカジノロワイヤルのかっこよさと衝撃には敵わなかった。スペクターの旗印であるタコさんがたくさん出てくる。そして背景にはかつて愛したヴェスパーやらラスボスの面々が登場。この演出は女王陛下の007ぽい。女王陛下といえば本作の劇場予告で女王陛下のテーマが流れてたからやはり意識しているんだとおもわれる。あれが流れたときには大変テンションが上がったものだが、結局本編であの曲が使われることはなかった。
OPクレジットの後、ダニボンは巨悪の正体に近づくべく準備を始めるわけだが、前作で殉職した真のボンドガールMの遺したメッセージが出てくるシーンでスカイフォールで使われたMのテーマ的曲が流れてちょっとウルっとくるのがポイント。前回より続投のベン・ウィショー演じるQは新世代になってもボンドに新しいオメガの機能を訊かれたときに「時間がわかる」とオヤジギャグを言う“らしさ”を持ち合わせているの良いですな。あと、ボンドにアストンマーチンDB10を横取りされた009はご愁傷様でした。
カツアゲした車で向かう先は待ってましたモニカ・ベルッチ姐さん!しかしまあ、出番これだけっ!?ってくらい短い!でもエロい!エロいけど短い!!
大変勿体無いモニカ姐さんであったが、ボンドが最初に寝た女は大体死ぬ法則からいくと、フェリックス・ライターに保護を求めるよう促したのはせめてもの情けか……。
モニカ姐さんの手掛りからいよいよ悪の巣窟へ潜入のボンドさん。ここで待ってましたクリストフ・ヴァルツの登場なんだけど例によってボンドさんバレッバレでスペクターの殺し屋とカーチェイスに突入。このカーチェイスも引きのショットで緊張感を持続させながらじっくりと見せてくれて大変良いです。DB10の流線型のボディって近未来的で凄く美しい。途中おじいちゃんがのんびり運転する車に阻まれたり、DB10にマシンガン(生憎弾倉は空っぽ)、火炎放射機能等が搭載されていたり、ここでも往年のボンド映画っぽさを覗かせる。5億5,000万掛けて装備を施した最新鋭のスポーツカーなのに、各種機能のスイッチが市販の部品だったり、テープライターで刻印した銘版を付けちゃったりするQのセンスが可愛らしい。
その後、手掛りを追う中で懐かしのMr.ホワイトが登場して、その娘、今回のボンドガール、レア・セドゥ演じるマドレーヌさんが登場。このマドレーヌさんの働いている雪山の療養施設が完全に女王陛下でニンマリ。ここにスペクターの殺し屋軍団が乗り込んでくるんだけど、さらわれたマドレーヌさんを飛行機で追跡するボンドの力技っぷりが従来のシリアスかつハードボイルドなダニボン路線を完全に破壊してて笑える。最後は主翼もぶっ飛んで無理やり車列に突っ込むというヤケクソっぷりで、「ああ、そうだボンド映画ってこんなもんだったな」と我に返るのだった。
ここの場面でもう一つ着目すべきが、スペクターの殺し屋リーダー格のヒンクスさん。バレルが水平二連状に2本くっついたガバメントカスタム片手にボンドに対抗する。AF2011-A1というロシア製の銃らしい。なんでもM1911誕生100周年記念で新規設計のうえ製作したらしいが、無骨で人間工学無視のデザインセンスといい、流石ロシアというべき素晴らし過ぎる一丁だ。
スペクターの秘密基地がアフリカにあることを突き止めたボンドとマドレーヌさん。ロシアより愛をこめてを彷彿させる列車の旅へ。二人でしっぽりと食堂車でディナーを楽しもうという矢先、ヒンクスさんが猛烈な勢いで殺しに来るのはすげえ笑った。さらに笑ったのがヒンクスを見事“途中下車”させた後のボンドとマドレーヌさんのあたふたセックス!死線を超えた二人の盛りようったら、あんたらいい加減にしなさいよ!と。ってか、こんだけドンパチやって「電車止めろよ!」っていう突っ込みは無粋なのか、はたまた、「ここはアフリカの辺境なので」で片付けられる問題なのか……。いずれにせよ、このあたりの展開は何故かとても雑に感じる。
さて、電車を降りて、スペクター総本山にご丁寧にお迎えの車で辿り着いた二人。ラスボスの我らがクリストフ・ヴァルツと再会だ。この辺りの展開も実に昔ながらのボンド映画らしい。なんだか知らないけど悪の親玉とウィットに富んだ会話を交わしつつ、敵さんのほうも丁重なおもてなしをするというアレ。
そして始まる“獲物を前に舌なめずり”の拷問シーン。脳に微細なドリルで少しずつ穴をあけていくという、これまた“らしさ”全開の拷問器具をボス自ら操作する定石通りの丁寧な展開。
この場面でペルシャ猫が登場し、「やっぱりね」と。そして“我が名はブロフェルド”の自己紹介。ここのヴァルツさんはコネリーボンド時代のブロフェルドっぽくマオカラージャケットを着用しているのもポイントね。
結局ブロフェルドはボンドの死んだはずの義理の兄でしたってことになるわけだけど、これは何とも言えん気持ちになったなあ。まあ、“007はスケールでかいけど話は小っちゃい”っていうお馴染みの要素と言えなくもないか。前作のスカイフォールから完全にその傾向にあったしね。
Qから貰った時計の目覚まし機能で辛くも脱出したボンドとマドレーヌさん。ガス管やら何やらを撃って基地はギネス級の大爆発。これが余りにもあっけなく、唐突すぎてポカーン状態。さておき、最近Twitterでこの爆破を成功させた直後のスタッフの写真を見たのだけど、そこには大変素敵な仕事人たちの姿がありました。皆楽しそうに仕事をしていて何より。
この後、ボンドはスペクターの仕組んだ情報システムとMI5の黒幕Cをとっちめにロンドンに戻るわけで、話がどんどん小さく纏まってくる。
またもやスペクターに捕らわれたボンドだが、目隠し状態のまま銃を持った男二人を相手に怒りMAXで拘束状態を脱する豪腕ぶりを発揮。所は爆破解体目前のMI6本部。廃墟状態のMI6内部に進むと、壁面に取り付けられた殉職者リストのプレートに赤スプレーでご丁寧に“JAMES BOND”の表記が。もう笑っちゃうよね。そして、更に赤スプレーの矢印通りに進んでいくと、またまたご丁寧に射撃場にボンドの顔写真の付いたターゲットが配置され、更に進むとル・シッフルをはじめかつての敵やヴェスパーさんたちの写真が飾られてるの。わざわざブロフェルドの指示の下、部下たちが一生懸命セッティングしたかとおもうと微笑ましいじゃあありませんか。黄金銃を持つ男のスカラマンガ・アトラクションにも通づるような、やたらマメで何処か可愛げのある昔ながらのボンド映画の悪役だなあとおもう。そして「こんな罠上等よ」と付き合ってあげるボンドの優しさよ。
ところ変わってMはCをとっちめるんだけど、新しいMは現場たたき上げ感も相まって凄くカッコイイおじさまだよね。マネーペニーといい、前作で本当に良いチームができたとおもう。
一方のボンドは矢印に導かれて先の大爆発で顔面を怪我したブロフェルドとご対面するんだけど、この怪我の仕方が007は二度死ぬのドナルド・プレザンス版ブロフェルドのオマージュなのが堪らない。んで、捕らわれのマドレーヌさんを救出し、MI6大爆発。シリーズこの後どうすんだよ……。
ヘリで逃げたブロフェルドをボートで追うボンド。前作の傷はすっかり癒えたのか、PPKの正確な射撃でヘリを見事撃墜しちゃう。ホンマかいな。この辺のブロフェルドの小物感満載のヘタレっぷりは観ていてホント悲しくなる。墜落したヘリから脱出したブロフェルドにボンドはとどめを刺さずMが普通に逮捕するんだけど、この時言っている「2001年施行の特別条例に基づき逮捕」の意味はよく分からなかったので知ってるしとおせーて。
物語の最後は00要員を辞職したボンドがスカイフォールでシルヴァさんにぶっ壊されたDB5を引き取ってマドレーヌさんと一緒に走り去っていくというもの。
さてはて、現実的な話、ダニエル・クレイグ本人はやる気無くても契約は一応あと一本残ってるっぽいから次回一体どうすんのかね。愛に生きるのーっ!と決めたボンドに女王陛下ばりの悲劇が起きたとて、それじゃあ一本で片付く話にならなそうだし、そもそもその手の復讐話はヴェスパーの一件でもう懲りたしっていう。
個人的には次回ダイアナザーデイのトラウマ上等、思いっきりバカやったら良いんじゃあ無いかというのと、一方で、いっそ今回でスッキリ辞めさせてあげて全てリセットした形で7代目ボンドを迎えるのがベストなんじゃないかとおもっている。
そんなこんなで、節操も無くダラダラと感想など述べてきたが、作品通してどうだったかというと、部分部分は良いんだけど全般的に見ると凄く惜しかったとおもう。
前作に引き続き落ち着いた引きの画とカット割は大好物だし、アクションも良くできてるんだよね。今回は往年のファンがニンマリする要素を従来より多めに散りばめているのも嬉しかった。続投だったサム・メンデス監督は良い仕事する人と改めて感じたところである。
一方、モニカ・ベルッチ姐さんの出番の少なさと、せっかくクリストフ・ヴァルツを迎えてのブロフェルドのキャラ設定が嫉妬深い義理の兄みたいに小じんまりしてて一々インパクトが無いという点。この二人の無駄遣い感はホント勿体無いとおもうでありますよ。結末の肩透かし感もブロフェルドのキャラクターの薄さに起因しているとおもう。あと、ボンド映画らしいちょっとお間抜けな感じやぶっ飛び展開は、前三部作が硬派な作りだったこともあり、あまりダニボンには似合わなかったというのも辛いところだった。
そしてもう一つ、カジノロワイヤルなんかと比べても時間的に余り変わらないはずなんだけど若干長く感じてしまったのよね。前述の“007はスケールでかいけど話は小っちゃい”パターンに乗っかった結果、間延び感が増大してしまったせいかもしれない……。
最後に、ここにダニボン四部作として、個人的に好きな順で並べてみる。
カジノロワイヤル>>スカイフォール>>>スペクター>>>>>>>>>>>慰めの報酬
やっぱりカジノロワイヤルはインパクトは勿論のこと、完成度高いっすよ。慰め~は今回MI6にグリーン氏の写真が貼られていなかったのが可哀想すぎて、もうそっとしておこうとおもいます……。