いつ以来かもう考えたくないけど、久しぶりに映画の感想なんかを。大々的にネタバレすると思われるので未見の人はすまねんこ。
というわけで「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」。こう見えて私も一応タンタンファンの端くれであるが、非常に楽しませていただいた。思えば何度も唱えられてきたスピルバーグの実写化企画であるが最新の映像テクノロジーでようやく実現に漕ぎ着けたわけだ。はじめはパフォーマンスキャプチャーの電子アニメということで若干の不安はあったものの、コテコテにならないよう配慮されたキャラクター造形と原作愛で以って見事に吹き飛ばしてくれたね。
なによりオープニングが素敵で涙出そうになった。ジョン・ウィリアムズの楽曲をバックに007カジノロワイヤルを思わせるシンプルな色使いと影絵調の構成でタンタンの活躍が描かれる。とにかく原作愛に溢れていて、タンタンとスノーウィがスポットライトの中を駆けまわり、電車に飛び乗ったかと思えば背景に市松模様の月ロケットがちゃっかりと居座っている演出が憎い(しかし、ということは月世界探検は映画化しないつもりか!?けしからん!笑)。そして原作エルジェの名の下、オリジナルの絵が写され、なぞのユニコーン号の表紙から物語が始まる。
物語が始まってもタンタンはすぐに顔を見せない。蚤の市で自分の似顔絵を描かせているのである。で、似顔絵を描いてる人が、これ間違いなくエルジェでしょ。もう泣かせるよなあ。後ろに張ってある似顔絵のサンプルも原作の絵柄そのままのキャラクターだらけでニヤニヤがとまらない。似顔絵が描きあがると、そこにはお馴染み原作そのままのタンタンの顔が。続いて本人の顔がしっかりとカメラに捉えられるというわけだ。ちょっとベタかもしれないこの一連の流れだが嫌味っぽくなく一途に観客をワクワクさせてくれるからやはり巨匠の腕の安定感は流石である。
物語全体は原作「なぞのユニコーン号」、「レッドラッカムの宝」にタンタンとハドック船長がはじめて出会う「金のはさみのカニ」を合わせてかなりアレンジを加えたものであった。
そもそも敵役はバード兄弟でなくダニエル・クレイグ演じるサッカリン。これって原作では悪役じゃなかったネクラソフさんだよね。なんでもサッカリンはレッドラッカムの子孫という設定であるから、対するはアドック卿の子孫ハドック船長という歴史を超えた再戦がはじまるわけだ。これは私の勝手な想像だが、単純にこれくらい厚みをもたせて明確な善悪を出したほうが映画的に面白くなるってことでリライトしたんだろうな。サッカリンは甘味料みたいな名前とハドック船長がおなじみの罵り文句でまくし立ててくれるのが素晴らしい。
また、悪徳船乗りアランや財布コレクションに熱を入れるスリの物語への関わり方、毎度お騒がせカスタフィオーレ夫人の登場、そして最大の焦点となる3枚の羊皮紙が指し示す方角と物語の終着点などなど、挙げ出せばきりが無いが随所にオリジナルと大幅に異なる構成がなされている。まあ、これらもサッカリンの位置づけ同様、映画的に面白くするための工夫である。悪く言えば所謂原作レイプというやつだが、本作の場合は違った。物語にアレンジは加われど原作への愛とブレないキャラクター設定、世界観で見事乗り切って見せた。
たとえば、タンタンがめちゃくちゃキャラ立ちした20代後半位のスーパーヒーローで携帯電話片手に銃をぶっ放し最後はヒロインを抱きしめて終わるのであればそれはタンタンではない。そもそもタンタンというのはそのシンプルな顔立ちから分かるように「何も無い」という意味が含まれているといわれている(そもそも年齢はさておき性別すらホントのところはどうなのってところで、実は女の子なんじゃないかって説もあったりするみたいだし…)。それはともかく、これは一部私の勝手な解釈でもあるのだけれども、タンタンが完全に物語の中核を成しているようで実は読者が「何も無い」部分にさまざまな想像を膨らませながら自分を当て込んで世界各国を冒険できるというところがこの物語の醍醐味ではないだろうか。作者エルジェの言う「7歳から77歳まですべての若者へ」とはこうした意味合いも内包しているのではないかと思えてくる。そしてその“主人公”タンタンのキャラクターを支えるのが、頼りになるけど時にはお酒を飲んではじけてしまう愛犬スノーウィであり、タンタンのある種の無個性を補う実に人間臭いキャラクターのハドック船長であり、インターポールのコスプレ刑事デュポン&デュボンであったり、マッドサイエンティストのビーカー教授(今回は登場しなかったけど)であったりするわけだ。本作では、これら個々のキャラクターのもつバランスを大きく揺るがすことなく、世界観や時代背景をそのままに映画として必要なスパイスを混ぜ合わせ再構成した。スピルバーグ、ピージャク、エドガー・ライト等々良い製作陣に恵まれて本当に良かったと思う。
さて、本作は冒頭でも述べたようにパフォーマンスキャプチャーを取り込んだ電子アニメだ。これにより無茶なアクションシーンやダイナミックなカメラワークも可能となっている。何しろクライマックスの一つであるバイクチェイスシーンが凄い。街を一気に駆け下りながら激しい追走劇を繰り広げるがそれら一連のアクションがワンショットで録られていることに気づく。あんな動きどうやったら思いつくんだ。これだけでも一見の価値がある映画。そのほかにも、アドック卿とレッドラッカムの衝突を再現する場面や波止場におけるクレーンチャンバラなどなど、どうにもこうにも頭のねじがいくらかぶっ飛んでないと(良い意味で)思いつかないようなアクションと画面構成にやられっぱなし。あと、全編通して照明の使い方なんかも絶妙で、スタッフロールよく見たらLighting consultant(?すまん、うろ覚え…)にスピルバーグ大将のお名前が刻まれていた。
そうそう、本作はとりあえず字幕版を観たわけだが、はじめになっちの名前が出てきたからヤバいかなと思ったのよね。しかしまあ、その横に監修ムーランサールジャパンと付記されていたのでとりあえず一安心。デュポンとデュボンがそのままトムソンとトンプソンにされることも無く。もちろん最大の関心はハドック船長で、映画版ではどんな悪態をつくものかと楽しみにしていたが定番の川口恵子氏の名訳「コンコンニャローのバーロー岬」は出ず。代わりに「びっくりフジツボ」のオンパレードだった。続編ではぜひ「バーロー岬」も入れてやってほしいところだけどね(まあ、元の台詞とのご都合もあるだろうけど…)。恐らくビーカー教授も出てくるだろうから個人的に最大ヒットだった悪態「イカレポンチのフラスコ頭」をお見舞いして差し上げて欲しいところ。
一方の吹き替えではこの辺りをどのように処理されたのかも気になるところなので、吹き替え版も観に行こうかなと思っていたり。というか、2D版を観たので折角なんだから3D版も観に行かなきゃいかんよね。あれ、ってことはもう一回観に行くってことじゃないか、ありゃまフジヤマ。
そんなこんなで、相も変わらずダラダラと書いてしまったけれども、タンタンの冒険、十分楽しませていただいたよ。続編も今回の路線からブレることなく製作していただけることを期待している。ああもう、今年No.1あげちゃおうかな。って、今年そんなに映画観ていないのだけれども…。というか、あんた「あげちゃおうか」って何様だよなんて言わないでおくんなまし。愛しのバーローみさきさま。
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敢えて実写でやらなかった製作陣に拍手。映画つーのは常にテクノロジーと共にあると改めて感じるわなあ。