🍆🍅野菜の生命力🍅🍆
私は農村で生まれ育ったわけでもなければ、農家の息子でもありません。
大学卒業後、普通に仕事をしていました。
仕事をする中で挫折することがあり、
「本当に人に必要とされている仕事って何だろう。
本当に、みんなに必要とされて生きたい」
と思うことがありました。
その時、「食べる物は絶対に必要だなぁ」と思って農家を志したのです。
結婚を機に私は、農業している妻の実家に入りました。
ずっとスポーツをやっていたので、体力には自信があったのですが、
いざ農家の生活に入ってみたら、
あっさり挫折しました。
朝早くから夜遅くまで働きます。
雨の日も風の日も台風の日でも休んではいられません。
毎日ボロボロになりながら、這いつくばって仕事していました。
使う筋肉やペース配分が、スポーツとまるで違います。
腰が曲がって「く」みたいになったおばあちゃんや、
「く」を通り越して「つ」つみたいになったおばあちゃんが、めちゃくちゃ仕事できるんですよ。
おばあちゃんに全く敵いませんでした。
農業の知識もなければ、おばあちゃんにさえ敵わなわないという状態で、私は何を始めたか。
近所の農業青年とすごく仲良くなりました。
その青年が農業学校卒だったので教科書をもらったんです。
それを読んで勉強するうちに気づいたことがありました。
それは、1粒の玉ねぎの種からは、1個の玉ねぎしかできない、ということでした。
作物が育つということは、すごいことだと分かりました。
それと同時に、出荷した野菜は誰かの役に立ち、
誰かの命をつないでいるだろうと想像できました。
そして、
「一体誰の役に立って、どんな人の命をつないでいるんだろう」
と思い始めたのです。
私は、いろんなところへ視察に行きました。
しかし、私の育てたレタスが挟まったサンドイッチをコンビニで買っている人は、
1人も楽しそうじゃありませんでした。
そして、私は大量廃棄のことを知ったのです。
本当にショックでした。
毎日朝から晩まで必死に汗水たらして頑張ってきた結果が、
人の命をつなぐこともできず、誰かの役に立つこともできずに廃棄されてしまう。
そんな野菜たちが、こんなにあったのかと初めて知りました。
よせばいいのに、私は帰宅して、そのことを先代に伝えました。
ろくに仕事もできない私が一丁前のことを言うわけですよ。
「こんなことやるために農業やっているのですか」
と訴えたら、案の定、先代はものすごく怒りまして、
先代たち夫婦と私の仲が悪くなっててしまいました。
私は、あっさり鬱になりました。
どもって言葉は出ないし、誰かの目を見ると体が緊張して顔面がけいれんし出すんです。
奇声を発したり、その辺をのたうち回るような悲惨な生活が実に5年間続きました。
気持ちが限界に達して
「もう農業はやめよう、これ以上続けられない」
と思った時、4歳になる息子の大地が亡くなったんです。
あまりにも突然のことで、私はとにかく泣きました。
1ヶ月以上、泣き続けたら、
自分がご飯を食べたのか、今立っているのか座っているのか、
今生きているのかさえ分からなくなりました。
目は腫れて開かず、息もほとんどできていない中で、
ある日、突然、視界が一点に止まったんです。
その瞬間、はっきり意識が戻りました。
皮肉なことに、5年間の鬱が大地の死をきっかけに治ったのです。
「これはきっと、大地のメッセージだから農業から離れてはいけない」
と思い、私は農業を続ける決心をしました。
でも、私は農薬が全く使えなくなっていました。
小さな1瓶の農薬がどれだけの命を奪うか、それを想像すると使えなかったのです。
先代に、「除草剤撒いておいてくれ」と言われても、
「わかりました」と返事をして、水だけを撒いていました。
そしたら見事に畑が荒れ果てました(笑)。
まず草が、ボーボーと生え、虫たちが畑中を飛び回り、
野菜は、ありとあらゆる病気にかかりました。
カビも生え、本当にめちゃめちゃでした。
「あーどうしよう、まずいなぁ」
と思いながらブラブラと畑を歩いていたら、
なぜか嬉しさがこみ上げてきました。
草が生き生きのびのびと生えて、
蝶がひらひらと楽しそうに飛んでいるのを見て嬉しくなっちゃったんです。
ただ収穫するものがないので経営がどんどん落ちていきまして、
先代からは怒られるし、行政から指導が入ることもありました。
私はまた「どうしよう」と思いながら畑を歩きました。
そしたら、ドロドロに溶けて腐ったレタスがあり、
その反対には、虫に食べられてレースのカーテンみたいになっているレタスがありました。
ところが、その間で
ピッカピカに、生き残っているレタスがあったんです。
それを見たとき、愕然としました。
「おれは何もしていないのに、このレタスはどうして生き延びているんだろう」
と、その場に這いつくばりました。
その時、大地の声で
「これが生命力だよ、お父ちゃん」
と言われたんです。
私は初めて野菜の「生命力」というものを実感しました。
今まで、私は、いかに生命力のないものを皆さんにお届けしていたのかと考えさせられました。
肥料をあげて大きくして、病気になる前に薬をかけて、
虫が来たらその虫を全部殺して、
野菜たちを過保護に育ててきたことに気づいたのです。
今、9割の方が病気で亡くなるといわれていますが、
その原因は食べ物にあるとを確信しました。
同時に、それは我々農家の責任でもあると感じました。
私は、何もしなくても力強く育つ野菜を育てたいと思いました。
今、私はその野菜たちを出荷しています。
うちの野菜を食べてくださる方々を元気にしたい。
そんな思いで、私たちは野菜を生産しているんです。
(「みやざき中央新聞」H29.1.30 村上さんより)
生命力のある野菜を食べましょう。(^_^)