監督の心②
(そういったお考えは、いつ頃からお持ちでしたか?)
🔹監督就任当時からありました。
そもそも球団側から監督就任の話を初めていただいた時なんていうのはほんとに驚きだったので、
「僕でいいんですか」って何度も言っていました(笑)。
というのも、現役引退後は主に解説者として21年やってきましたけど、
監督になりたいという気持ちもなければ、
できるなんてことも思っていませんでした。
ですから、
誰よりも野球を愛し、
誰よりも選手のために尽くすという、
その思いだけを強く持ってやることをしかできない
と球団側にお伝えしたところ、
それでいいと言ってもらえたので、
それだけは絶対にやり尽くそうと思ってやってきました。
(ではそれが栗山監督の監督としての原点ですね)
🔹選手が少しでも成長するためには、こちらは10倍も20倍も努力しなきゃいけないことは分かっていたので、
それができてきたかというと難しい質問になっちゃいますけど、
1年目からその意識だけは持ってやってきました。
ただその成長ということに関して、野球のことや過去の監督さんのことについては解説者の頃から勉強してきたつもりでしたけど、
本当の答えはそこじゃないと思っていました。
(どういうことでしょうか)
🔹もっと視野を広げて物事を見た時に、組織を活かしたり人の心を掴める人になるためのヒントは、
歴史の中にいっぱい隠れているはずではないかと。
野球の監督だからって野球のことだけに限定して学ぶんじゃなくて、
もっと広く勉強することで人間的に成長すれば、
結果は必ずついてくると思ってやってきました。
だから僕は古典からも学ぶんです。
古典というのは、ある意味データですよね。
それも長い歴史を経る中で、
こういう人が、
こんなことをやったら、
こんなふうになりました、
ということが積み重なってきたものを、
凝縮しているだけの話だと思うんですよ。
当然くだらないものは消えていたはずなので、
今も残っている古典はデータとして正しいものだけだということになる。
だからこそ、そこから学べばいいわけです。
先ほど井原さんのことに触れましたけど、
これは自慢じゃありませんが、日本人の中で僕が1番井原さんのCDを聞いているんじゃないかと思います。
CD自体は10年前くらいから聴いていましたけど、監督になってからの5年間は車の中で毎日聴いています。
(毎日ですか)
🔹全部で50時間分くらいのCDを車に載せていて、
それをただひたすら繰り返し流しているだけなのですが、もうほとんど暗記しています(笑)。
もちろん『人の用い方』や『社長の帝王学』といった井原さんの本も何度も読み返して、自分なりにそれをノートに写したりもしてきました。
(監督になられる前からそういう勉強されていたと)
🔹ただ、こういった学びが本当に必要だなと思ったのは、やはり監督になってからですね。
1つの組織を預けられたことで初めて理解できることもありました。
それに今でもCDを聴く度に引っかかるところが違いますね。
(それは監督ご自身の心境の深まりから来るのでしょうか)
🔹その時のチーム状況とか、いろいろあると思います。
残念ながら井原さんにお会いしたことはありませんが、
間違いなく僕の師匠ですよ。
会ったこともない人間にそんなこと言われて迷惑がられるかもしれませんけど、
人間としての生き方や考え方について井原さんから学んだことは本当に多いですね。
(「致知」3月号 栗山監督インタビューより)