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艱難汝を玉にす③

2017-02-07 17:52:26 | お話
艱難汝を玉にす③


🔸福地、先ほど

「会社の中にいても仕事はない。現場へ出ろ」

という佐川清さんの教えをご紹介いただきましたけれども、

いまの設備投資のお話には、そういう薫陶を受けて育まれた木下さんの現場主義がよく表れていますね。

私も現場が好きでしてね。

新国立劇場の理事長を務めていた時に、上演されるオペラの裏方を見に行ったら、

舞台に登場する将軍や兵士の洋服の飾りが、

プラスチックでもよさそうなものなのにちゃんと金具でつくってあるんです。

フェルトの帽子の裏地も一所懸命毛羽を立てている。

観客から見ても全然分からないんですけれど、演じる本人には分かるから、本当の演技ができるわけです。

日本人というのは、そういう人の見えないところに気持ちを馳せますね。

着る物でも裏地に凝りますし、住まいもトイレとか炊事場とか、目立たない水回りにも凝る。

仕事もそういう見えない部分というのがとても大切ですけれども、

それは現場に出なければ分からないんですね。

表だけ取り繕うことは誰でもできますけど、

現場を歩いてみると表からは気づかないものがやっぱり分かる。

木下さんの仕事も、現場から発想する姿勢を貫いておられますね。

環境に無害な印刷溶剤を使用なさっているのもそうです。

お客様には見えない部分でのご努力と言えますが、コストの面では随分高くついてると思うんです。


🔹木下、大手さんが始められた時代はそこまで問われなかったんですが、

私どものような後発の会社は、最初から環境問題を意識せざるをえませんでしたからね。

例えば、うちの日野工場がある滋賀県というのは、

農業を営んでおられる方がたくさんいらっしゃいますから、

インクを洗った溶剤を工場から排出したら大変なことになるんですね。

ですから、工場内ですべて処理できる近代的な設備を整えてあるんです。


🔸福地、あの工場は素晴らしいですね。印刷工場というよりは、美術館という印象です。

🔹木下、福島の原発事故の際に電力の足を補うために、

電気の買い取り制度が立ち上げられましたけれども、

日野工場では工場の屋根に太陽光パネルを約1万枚設置して、

年間で230万キロワットを発電できるようにしています。

もちろん印刷設備も充実していましてね。

関西で唯一の出版グラビア印刷機を保有するほか、

例えば幅2メートル45センチの紙を印刷できる機械もあるんですけど、

それは大手の大日本印刷さんも凸版印刷さんも、まだ持っていらっしゃいません。

紙は海外からの船便で届くんですが、大き過ぎて普通の道路では工場まで運べないんですよ。

それで国土交通省に申請して特別ルートをつくることで輸送が可能になったんです。

私には、「前に前に」「今日も挑戦」という言葉がすごく好きでしてね。

設備投資も積極的にしてきましたけれども、投資が早すぎて失敗したことをは幸いこれまで1度もありません。

関連会社も五社立ち上げましたが、いずれも赤字を出したことがないんです。


もちろんこれは、佐川清元会長の成長のきっかけをいただいて、

いろんな教えや、激励や、お叱りをいただきながら、

挫けずに一所懸命やってきた足跡の中で築き上げることをのできた実績です。

お客様もどんどん増えていきましたから、

私は特に社員教育には力を入れてきました。

いまも、私の考えが各役員から各支店にしっかりと落とし込んでいけるよう心掛けていますけれども、

会社で1番大事なことは、社員とのコミニケーションだというのが私の信条です。


🔸福地、確かにおっしゃるとおりだと思います。

🔹木下、もう絶対にそうだと思うんです。

ところがいまは言葉が少なくなってきている。

自分の意思がしっかりと相手に伝わるように喋(しゃべ)れない。

お客様に対しても同じです。

お客様にキチッとお話ができるという、そういう社員教育というのはとても大事ですね。

私どもはお客様あってこそ成り立っているわけですから、

まずはお客様に印刷のプロとしてご満足いただけるご説明をしっかりできること。

そのために大事なことを、自分の体験を交えて教えてきました。

お客様によって個性も立場も違いますから、

なかなかセオリーどおりにはいきませんけれども、

そこからいかに上手くお客様のニーズを引き出してくるか。

それができたらしめたものです。

そのためには、やはり何回もお客様のもとに足を運んで、

この人は信頼できるな、話してもいいなと思っていただくことです。

そういう人間同士の信頼関係を築いていくことが大事ですね。

そういう点でいいのは、スポーツをやっていた社員ですね。

礼節を弁(わきま)えているし、人に対して自然に頭が下がる。

忍耐強く、少々辛くても辞めません。

ですから私どもは、スポーツマンを結構採ります。

全国26支店で、半分はスポーツ経験者なんです。


🔸福地、会社で野球やサッカーのチームを持たれて、

スポーツの普及に力を入れていらっしゃるのも、

そういうお考えが背景にあるわけですね。

🔹木下、そうですね。おかげさまでサッカー部は14年連続国体出場して、優勝4回、準優勝を2回しています。

野球部も優勝と準優勝1回ずつ果たしています。

🔸福地、スポーツで培ったチームワークは、仕事にも生きてくるのがいいですね。

私が先輩からよく言われたのは、

チームワークというのは仲良しグループのことではないよと。

例えばラグビーでも、何かに秀でた選手は1人いて、

100メートルを12秒で走る中で、足の速い1人が11秒で走れば、

全員が11秒にならないまでも11秒に近づくんだよ。

だから何かの分野で優れている社員が1人いたら、

全員がそれに近づいていこうと努力して全体のレベルが上がっていく。

そういうのが本当のチームワークになるんですね。

🔹木下、やっぱり人ですね。人の改革が重要です。

🔸福地、私はよく、出る杭を打ってはいけないと言うんです。

出たがる杭はスタンドプレーですから打たなければいけないけど、

出る杭は打たらあかんと。

🔹木下、確かに出る杭は伸ばしてやりたいんですが、皆打ってしまうんですね。

例えば、下が育ってくと上司がしんどくなってきて、

それを抑えようとすることがありますが、

これは一番避けなければなりません。


(「致知」3月号、佐川印刷会長 木下さん、アサヒビール元会長 福地さん対談より)