🌸🌸発酵ってそもそも、何ぞや?🌸🌸
「突然ですが質問です。
塩を振った煮大豆と、お味噌。
毎日、食べたいのはどちらですか?」
と聞かれたら、
ほとんどの人が
「もちろん味噌!」
と答えるはず。
しかしだ。
考えてみれば、煮大豆も味噌も、実は原料はほぼ一緒。
なのに、なぜ味噌には毎日食べても全然飽きない複雑な風味と香りがあるのか。
そのひみつは、微生物。
目に見えない生き物が、食べ物を美味しく変化させる。
麹菌という特殊なカビが大豆にくっつくと旨味甘とコクたっぷりの味噌になり、
ブドウに酵母(イースト)がくっつくと香り高いワインに、
牛乳に乳酸菌という細菌がくっつくと酸っぱくて爽やかなヨーグルトができる。
このように、微生物の人間に役立つ働きをしてくれることを「発酵」と言います。
微生物=生物の第三のカテゴリー
動物・植物・微生物。
この3つのカテゴリーが、生物の古典的な分類の3つ。
動き回ってエサを食べる生き物と、動かずに光合成して生きる生き物と、目に見えない生物。
発酵は、第3のカテゴリーである微生物たちが主役になって引き起こされる現象です。
さてこの微生物、実は地球上で最も繁栄している生き物。
空気中にも土のなかにも、皮膚の表面にも何億、何兆と住んでいる。
植物のように光合成するもの、動物のように動き回って他の生物を食べるもの、
光も酸素もない地底や深海、氷河、や火山でもへっちゃらな摩訶不思議なものもいます。
北から南、空から海底まで地球の隅々まで無数の微生物が住んでいる。
その中に、ごく稀に「人間によくなつき、良いことをしてくれる微生物」がいます。
そいつらを「発酵菌」と呼びます。
この発酵菌は、次の3つのカテゴリーに分かれます。
今のように豊かな食材や食べ物を保存する冷蔵庫がなかった時代、
発酵は厳しい冬は夏の腐敗を生き延びるために大事な技術でした。
食における発酵の機能を定義すると、この3つ。
先ほどのお味噌を例にとると、
①腐らない、煮大豆は1週間で腐るが、お味噌は何ヶ月も腐らない。
②栄養満点、お味噌には良質のタンパク質やアミノ酸やビタミン類がいっぱい。
③おいしい、お味噌汁は毎日飲んでも飽きないほどおいしい!
と言うことになります。
このように、食べ物が時間とともに変化していく様子を注意深く観察しているうちに、
腐らずに、むしろ香りや味が増したり、保存性が高まるレアケースを選別し、
それを、いつでも誰でも再現可能のメソッドに磨き上げていった、のが発酵という「文化」の原点。
そんな先人たちの知恵の結晶である「発酵」を最も一般的に定義すると、
人間に有用な微生物が働いている過程
であると言えるでしょう。
あわせて発酵とコインの裏表になっている「腐敗」は、
人間に有害な微生物が働いている過程
と定義することができます。
ざっくり言うとだな。
人間に役立てば発酵、役に立たなければ腐敗
ということになります。
つまり発酵というのは、普遍的かつ唯物論的な概念のようでいて、本質は「人間中心の唯心論的概念」であると言えるでしょう。
…えっ、ムズカしい表現するなって?
要は、
「愛が恋人たちのなかにしか存在しないように、
発酵もまた食いしん坊の人間の中にしか存在しない」
ってことさ。
生命工学的に定義すると、発酵は生物間における普遍的な科学現象。
ですが、
序章で述べたように「人の好み」という側面から見ると、
とたんに発酵は哲学的・文化人類学的様相を得ることになる。
本編では、科学と哲学、客観と主観、微生物世界と人間のあいだを行ったり来たりしながら、
「発酵とは何か?」が掘り下げられていきます。
どうぞ、よろしく。
(「発酵文化人類学」小倉ヒラクさんより)
「突然ですが質問です。
塩を振った煮大豆と、お味噌。
毎日、食べたいのはどちらですか?」
と聞かれたら、
ほとんどの人が
「もちろん味噌!」
と答えるはず。
しかしだ。
考えてみれば、煮大豆も味噌も、実は原料はほぼ一緒。
なのに、なぜ味噌には毎日食べても全然飽きない複雑な風味と香りがあるのか。
そのひみつは、微生物。
目に見えない生き物が、食べ物を美味しく変化させる。
麹菌という特殊なカビが大豆にくっつくと旨味甘とコクたっぷりの味噌になり、
ブドウに酵母(イースト)がくっつくと香り高いワインに、
牛乳に乳酸菌という細菌がくっつくと酸っぱくて爽やかなヨーグルトができる。
このように、微生物の人間に役立つ働きをしてくれることを「発酵」と言います。
微生物=生物の第三のカテゴリー
動物・植物・微生物。
この3つのカテゴリーが、生物の古典的な分類の3つ。
動き回ってエサを食べる生き物と、動かずに光合成して生きる生き物と、目に見えない生物。
発酵は、第3のカテゴリーである微生物たちが主役になって引き起こされる現象です。
さてこの微生物、実は地球上で最も繁栄している生き物。
空気中にも土のなかにも、皮膚の表面にも何億、何兆と住んでいる。
植物のように光合成するもの、動物のように動き回って他の生物を食べるもの、
光も酸素もない地底や深海、氷河、や火山でもへっちゃらな摩訶不思議なものもいます。
北から南、空から海底まで地球の隅々まで無数の微生物が住んでいる。
その中に、ごく稀に「人間によくなつき、良いことをしてくれる微生物」がいます。
そいつらを「発酵菌」と呼びます。
この発酵菌は、次の3つのカテゴリーに分かれます。
今のように豊かな食材や食べ物を保存する冷蔵庫がなかった時代、
発酵は厳しい冬は夏の腐敗を生き延びるために大事な技術でした。
食における発酵の機能を定義すると、この3つ。
先ほどのお味噌を例にとると、
①腐らない、煮大豆は1週間で腐るが、お味噌は何ヶ月も腐らない。
②栄養満点、お味噌には良質のタンパク質やアミノ酸やビタミン類がいっぱい。
③おいしい、お味噌汁は毎日飲んでも飽きないほどおいしい!
と言うことになります。
このように、食べ物が時間とともに変化していく様子を注意深く観察しているうちに、
腐らずに、むしろ香りや味が増したり、保存性が高まるレアケースを選別し、
それを、いつでも誰でも再現可能のメソッドに磨き上げていった、のが発酵という「文化」の原点。
そんな先人たちの知恵の結晶である「発酵」を最も一般的に定義すると、
人間に有用な微生物が働いている過程
であると言えるでしょう。
あわせて発酵とコインの裏表になっている「腐敗」は、
人間に有害な微生物が働いている過程
と定義することができます。
ざっくり言うとだな。
人間に役立てば発酵、役に立たなければ腐敗
ということになります。
つまり発酵というのは、普遍的かつ唯物論的な概念のようでいて、本質は「人間中心の唯心論的概念」であると言えるでしょう。
…えっ、ムズカしい表現するなって?
要は、
「愛が恋人たちのなかにしか存在しないように、
発酵もまた食いしん坊の人間の中にしか存在しない」
ってことさ。
生命工学的に定義すると、発酵は生物間における普遍的な科学現象。
ですが、
序章で述べたように「人の好み」という側面から見ると、
とたんに発酵は哲学的・文化人類学的様相を得ることになる。
本編では、科学と哲学、客観と主観、微生物世界と人間のあいだを行ったり来たりしながら、
「発酵とは何か?」が掘り下げられていきます。
どうぞ、よろしく。
(「発酵文化人類学」小倉ヒラクさんより)