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甲州ワイン④

2017-08-21 10:59:26 | お話
④甲州ワイン


それでは、旭洋酒のワイン抜きづくりの現場に迫ってみよう。

まず原料のブドウ。

主要ラインナップである白ワインの原料である甲州ブドウは、近所の農家さんから仕入れている。

一方、赤ワインや限定酒の原料となるメルローやピノ・ノワールなどのヨーロッパ種のワイン専門ブドウは、自分たちで栽培している。

仕入れ先を分ける理由がまた面白い。

ワイン専用ブドウは、ワインをよく知る人でないと質のよいものがつくれないので、醸造家自らがつくる。

一方、甲州ブドウは農家の育てる昔ながらのものが良いと旭洋酒は考えているのだね。

これは単なるポリシーで済む話ではなく、

技術的に考えてみても興味深いものがある。

ワイン専用ブドウは、ワイン醸造に適した糖分や酸味、渋みなどが強く凝縮するのだが、

樹になっている状態のものを食べても判定ができない(ていうか、あまり美味しくない)。

だから、ブドウ自体の質を判定するには、ワインの質がイメージできなければいけない。

したがって普通の農家では質の良いワイン用ブドウを栽培することができないわけだ。

しかもワイン用ブドウは、もともと乾燥した土地で生まれたので湿気に弱く、

日本の湿っぽい風土だと病気で枯れたり天候に左右されて質が悪化したりする。


いっぽう甲州ブドウは食用ブドウなので、出来のよしあしはブドウをもいで食べればわかる。

しかも、1300年間ほったらかしの野生に近いブドウなので、

病気にも比較的強く、乾燥にも湿気にも耐え、

さらに秋の紅葉が綺麗なので観光にもバッチリ!

という1粒で何度も美味しい器用なブドウなのだね。

しかし、ことワイン醸造となると、この

「なんでもそこそこにこなす」

という器用さが仇になる。

まず標準的なワインのアルコール度数(12.5度)には糖分が少なすぎる。

そして薄い紫色の皮には渋みが少なく、フルボディの赤ワインをつくるのは無理。

しかも長期間熟成に向いていない
(味が深くなりにくい)。


つまりだ。

最初からワイン醸造用に特化して進化してきたヨーロッパ種のブドウとくらべて、

「足りないもの」

がたくさんあるんだね。


ここで皆さまに問いたい。

レヴィ・ストロースの言う「ブリコラージュ」の精神を発動させるものとは何か?

答えはもちろん、

「足りないもの=制限」だ。

甲州ワインの真髄とは、原料の甲州ブドウが絶妙に「ツッコミどころ満載」であることなのだよ。

醸造家が工夫して補ってあげないと、ちゃんとしたワインとして成立しない。

そこは裏を返せば、

醸造家の工夫が生かされる余地がたくさんある、

ということだ。


旭洋酒で販売や広報を担当する妻の順子さんの語るところによると、

甲州ブドウを使ったワインづくりにおいての工夫のしどころは3つ。

・ブドウを収穫するタイミング

・糖分の不足をどう補うか

・どこまでキレイにブドウ汁の清澄をするか


1つずつ解説していこう。

まずはブドウの収穫のタイミング。

甲州ブドウはワイン専用ブドウと違って収穫期が長い。

例えば甲州ブドウと同じく白ワイン用のシャルドネは、

9月前半から中盤にかけてブドウが熟すと速攻で収穫しなければいけない。

このタイミングを逃すと酒質が劣化する。

甲州ブドウは9月前半から10月終わりまでの2カ月間の収穫期がある。

この2ヶ月のあいだにいつブドウを摘むのかでワインの味が変わってくる。

9月の早いタイミングで摘むと、酸味の香る澄んだ風味のワインになる。

10月終わりの遅いタイミングで摘むと、食用ブドウらしいふくらみのある、穏やかで丸い風味のワインになる。

どちらにするかは、醸造家のセンスセンス次第だ。

正解はない。


次に糖分の不足を補う方法。

南イタリアやスペインの強い日差しをいっぱいに浴びて育つワイン専用ブドウには、酵母の餌となる糖分がぎゅっと濃縮される。

それをしっかり発酵させると、アルコール度数12〜13%のワインができあがる。

しかし南欧よりもマイルドな気候で育つ甲州ブドウは、そこまで糖分を凝縮することができない。

したがって、標準的なワイをつくるためには、糖分を補ってあげなければいけない
(これを補糖という)。


昔の農家のように、たくさん入れすぎると味がだれてしまうので、

必要最小限の量を計算するのだが、

この計算の微妙な差異がワインの味を左右する。


最後にブドウ汁の清澄。

発酵を始める前に搾ったブドウ汁の上澄みを抜き出す。

底に沈殿した果実の内容物は基本的に捨ててしまうのだが、

甲州ワインの場合は沈殿物をもう一度上澄み液に戻す。

上澄み液だけだと、酵母のエサが足りず、元気のないワインになってしまう。

そこで、ある程度沈殿物を入れるわけだが、

これも補糖のテクニックのように微妙のさじ加減が必要になる。

旭洋酒の場合は

「このブドウだと多分これぐらいの濁りかな…」

と目分量ではかりながらポンプで沈殿物をタンクに戻すらしい。

めっちゃ、アナログ!


このように、甲州ワインをつくるためには、甲州ブドウの食用ブドウとしての特徴や、

足りないものを補うテクニックをいくつも重ねてワイン好きでも納得できる味に仕上げていく。

この「足りないものを補う工夫」が必須である甲州ワインは、

別の見方をすると

「醸造家の個性を映し出すワイン」

と言うこともできる。

ワイン専用ブドウにしては突っ込みどころが多い甲州ブドウは、

漫才コンビの「ボケ」で、そこに「なんでやねん」と突っ込む世話焼きの醸造家は「ツッコミ」だ。

ボケとツッコミがお互いの良さを引き出して、

愉快な漫才…、

じゃなくてワインになるのであるよ。

甲州ブドウはいわゆる優等生のブドウではない。

だからこそ、醸造家の創造性を開花させることができる。

甲州ワインは人と自然が二人三脚でつくりあげるブリコラージュの芸術なのだ。


(興味ある人には、つづく)

(「発酵文化人類学」小倉ヒラクさんより)

久々にマック

グランクラブと、レモンバジルチキン