その昔。花といえば桜にきまっていた。
平安時代のみやびとがこよなく愛した桜が、今、咲いている。
「桜がほほえむ」という表現がある。桜が咲きましたよ
という意味である。いや、ちゃんと辞書に載っています。
ほほえむとう言葉で思いだすのは平安の昔ではなく現代
のこと。
駐車場で時々会う彼女のことである。
先日も買い物に出かけようとして車のところへゆくと
見覚えのある車のそばに見覚えのある彼女が立っていた。
自分のところからは2~3メートルの距離がある。
自分よりはずっとずっと若い人である。
顔が合ったので無意識のうちに微笑みを送ってしまう。
だが、数秒間の間隔ののちにそのお返しが自分にも送られて
きたのである。
もし、「微笑み返し」という言葉あるならば、まさに
それである。
そのときは何も考えていなかったが、あとで何か声を
かければよかったかなと、後悔した。
桜がきれいに咲いている。桜が咲くという意味と同じ
に「桜がほほえむ」という言い方もある。
彼女のほほえみは自分のもとにしっかりと届いたのは
間違いない。
ただそれだけのことで、ほかには何もない。
今のところは。
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